今日の記事、ざっくり言うと・・・

  • 働き方改革推進法に付された46の附帯決議を見ていく

世界の労働基準監督署からVOL014:足立労働基準監督署

先日成立し公布された働き方改革推進法には、なんと46の附帯決議が付されています。そこで、何回かに分けて、附帯決議の内容を見ていきたいと思います。

一、労働時間の基本原則は、労働基準法第三十二条に規定されている「一日八時間、週四十時間以内」であって、その法定労働時間の枠内で働けば、労働基準法第一条が規定する「人たるに値する生活を営む」ことのできる労働条件が実現されることを再確認し、本法に基づく施策の推進と併せ、政府の雇用・労働政策の基本としてその達成に向けた努力を継続すること。

二、働き過ぎによる過労死等を防止するため、労使合意に基づいて法定労働時間を超えて仕事をすることができる時間外労働時間の上限については、時間外労働の上限規制が適用される業務だけでなく、適用猶予後の自動車の運転業務や建設事業等についても、時間外労働の原則的上限は月45時間、年360時間であり、労使は三六協定を締結するに際して全ての事業場がまずはその原則水準内に収める努力をすべきであること、休日労働は最小限に抑制すべきことについて指針に明記し、当該労使に周知徹底を図るとともに、とりわけ中小企業に対し、その達成に向けた労使の取組を政府として適切に支援すること。

これは、実務にはあまり影響はないと思われます。

三、労使が年720時間までの特例に係る協定を締結するに当たっては、それがあくまで通常予見できない等の臨時の事態への特例的な対応であるべきこと、安易な特例の活用は長時間労働の削減を目指す本法の趣旨に反するもので、具体的な事由を挙げず、単に「業務の都合上必要なとき」又は「業務上やむを得ないとき」と定めるなど恒常的な長時間労働を招くおそれがあるもの等については特例が認められないこと、特例に係る協定を締結する場合にも可能な限り原則水準に近い時間外労働時間とすべきであることを指針等で明確化し、周知徹底するとともに、都道府県労働局及び労働基準監督署において必要な助言指導を実施すること。

今回の改正により、時間外労働については、特別条項を締結した場合においても年間720時間の上限が設けられましたが、限度基準を超えるような時間外労働は「通常予見できない等の臨時の事態への特例的な対応であるべき」という原則を確認するものです。これらの内容はすでに行政通達などにも盛り込まれている内容ですが、「指針等」に格上げされることが見込まれます。

四、特例的延長の場合においては、時間外労働時間の設定次第では四週間で最大160時間までの時間外労働が可能であり、そのような短期に集中して時間外労働を行わせることは望ましくないことを周知徹底ること。

改正法では単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)の限度が設定されます。そうすると、月末締めの会社の場合、2か月にわたる期間4週間、たとえば月の後半と翌月の前半に労働時間を集中させると160時間の時間外労働が可能ということになります。その点を注意喚起しようというのがこの内容です。

五、事業主は、特例の上限時間内であってもその雇用する労働者への安全配慮義務を負うこと、また、脳・心臓疾患の労災認定基準においては発症前一箇月間の時間外・休日労働がおおむね100時間超又は発症前2箇月間から6箇月間の月平均時間外・休日労働がおおむね80時間超の場合に業務と発症との関連性が強いと評価されることに留意するよう指針に定め、その徹底を図ること。

これは、特段新しいことを指摘したものなく、従来からある過労死認定基準の周知を図るものです。

六、時間外労働時間の上限規制が五年間、適用猶予となる自動車運転業務、建設事業、医師については、その適用猶予期間においても時間外労働時間の削減に向けた実効性ある取組を関係省庁及び関係団体等の連携・協力を強化しつつ、推し進めること。

自動車運転業務、建設事業、医師については、労働時間の上限規制を5年間適用猶予されることになりましたが、猶予期間中も時間外労働時間の削減に関する取組を進めることを確認するものです。

七、自動車運転業務の上限規制については、五年の適用猶予後の時間外労働時間の上限が休日を含まず年960時間という水準に設定されるが、現状において過労死や精神疾患などの健康被害が最も深刻であり、かつそのために深刻な人手不足に陥っている運輸・物流産業の現状にも鑑み、決して物流を止めてはいけないという強い決意の下、できるだけ早期に一般則に移行できるよう、関係省庁及び関係労使や荷主等を含めた協議の場における議論を加速し、猶予期間においても、実効性ある実労働時間及び拘束時間削減策を講ずること。また、5年の適用猶予後に一般則の適用に向けた検討を行うに当たっては、一般則の全ての規定を直ちに全面的に適用することが困難な場合であっても、一部の規定又は一部の事業・業務についてだけでも先行的に適用することを含め検討すること。

八、自動車運転業務については、過労死等の防止の観点から、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」の総拘束時間等の改善について、関係省庁と連携し、速やかに検討を開始すること。また、改善基準告示の見直しに当たっては、トラック運転者について、早朝・深夜の勤務、交代制勤務、宿泊を伴う勤務など多様な勤務実態や危険物の配送などその業務の特性を十分に踏まえて、労働政策審議会において検討し、勤務実態等に応じた基準を定めること。

九、改正労働基準法第140条第1項の遵守に向けた環境を整備するため、荷主の理解と協力を確保するための施策を強力に講ずるなど、取引環境の適正化や労働生産性の向上等の長時間労働是正に向けた環境整備に資する実効性ある具体的取組を速やかに推進すること。

7と8は、自動車運転業務に関する猶予期間中の取組について定めたものです。今回の法改正に合わせて、改善基準も改正されるようです。

十、医師の働き方改革については、応召義務等の特殊性を踏まえ、長時間労働等の勤務実態を十分考慮しつつ、地域における医療提供体制全体の在り方や医師一人一人の健康確保に関する視点を大切にしながら検討を進めること

医師の労働環境については、これまでもしばしば問題とされてきました。そのため、猶予期間中に医師の働き方改革の検討が進むことになりそうです。

今日はここまでにしましょう。

参考リンク

「働き方改革」の実現に向けて(厚生労働省HP)

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