今日の記事、ざっくり言うと・・・

  • 来年4月から本格化するとみられる無期転換ルールの中で、「別段の定め」により労働条件を変更する場合について説明
  • 「別段の定め」により労働条件の変更をする場合、その内容が無期転換ルールの趣旨を阻害する場合や、公 序良俗に反する場合には、当該労働条件の変更が無効と判断される可能性がある

写真は記事内容と関係ありません。

今回は、「無期転換ルールの復習その2」と題して、いよいよ来年4月から本格化するとみられる無期転換ルールについて、解説していきましょう。なお、前回の復習はこちらです。

無期転換ルールの復習その1

その1では、最後に、無期転換申込権を行使した場合の労働条件について解説しました。すなわち、無期転換後の労働条件は、労働契約の期間を無期労働契約へ転換するだけで、他の労働条件は当然に変更されるわけではありませんが、「別段の定め」をすることにより、期間の定め以外の労働条件を変更することは可能とされています。

この点について、福岡労働局HPにはもう少し詳しい解説(Q&A)が掲載されています。

それによれば、労働者・ 使用者のいずれからも労働条件変更を申し出ることは差支えないとした上で、労働条件変更の要件は、「適正に定められた労働協約、就業規則、個々の労働契約のいずれかに、 労働条件について別段の定め(無期転換後の労働条件の定め)があること」 とされています。

この要件のうち、まず、労働協約又は就業規則における「別段の定め」については、労働協約や就業規則は、特定の個人だけに適用されるものではなく、労働者に広く 適用されるものでるので、無期転換事案が発生する前にあらかじめ「別段の定め」を設けること、 及び、「別段の定め」の内容を労働者に周知することが必要となります。

それにより、「別段の定め」が社内ルールとして定着し、無用の労使トラブル発生 の防止につなり、労働者にとっても事前に無期転換後の労働条件を検討することが出来るので、 無期転換申込権を行使するか否かの判断に役立てることが可能となるとされています。

次に、個々の労働契約による「別段の定め」については、これを「労働条件変更について、当事者である個別労働者と使用者との合意」とした上で、労働協約や就業規則と比べると、特定の労働者だけに適用されることと、個々の当 事者の合意があってはじめて「別段の定め」になるということに違いがあるので、あらかじめ「別段の定め」がなくても、無期転換事案が発生するとき になってはじめて労使のいずれかから労働条件変更の申し出があり、それが合意され れば「別段の定め」となり、労働条件変更が可能となるとしています。なお、合意されなければ「別段の定め」になりませんから、労働条件は変更されず、 有期労働契約時と同一の労働条件ということになります。

さて、Q&Aでは、「別段の定め」により労働条件の変更をする場合、その内容が無期転換ルールの趣旨を阻害する場合や、公 序良俗に反する場合には、当該労働条件の変更が無効と判断される可能性があるとしています。「極端な例」として、次のような場合を挙げています。

  • 職務内容などの勤務条件が変わらないのに、賃金などの労働条件が低下した場合
  • 無期転換申込みを抑制するため、労働者が配転に応じられないのを承知で、必要 性のない配転条項を定めた場合

これらの場合、合理性が認められないとして労働条件の変更が無効と判断される可能性があるため、「別段の定め」を設ける場合には、無期転換ルールを十分に理解する とともに、その趣旨を阻害しない内容とすることが求められるとしています。

最後に、「無期転換に伴う労働条件変更は、とてもデリケートな問題です。・・・様々な事情によって働き方に一定の制限があり、それにそった労 働条件を求める労働者もいらっしゃいます。ですから、全てのケースを網羅した解決策をお示しすることは大変難しく、むしろケースバイケースで解決すべき問題と考えた方が適切でしょう。回答にお示しした基本的な考え方を踏まえながら、それぞれのケースに応じた、労 使双方にとって最善の解決策を判断していくこととなるでしょう」としています。

無期転換後の労働条件は、このように難しい論点が多く含まれています。仮に、主婦パートが多い事業所で無期転換後は全て正社員するとして、これにより無期転換権行使がほとんど行われない事態になった場合、「趣旨を阻害」しているかどうかというのは、どのように司法判断されるか予測することは極めて困難です。無難な対応として、まずは労働条件はそのままで無期契約にするところから、必要に応じて配置転換を求める職種、限定正社員、あるいは正社員登用するなど複線化するのが良いでしょう。

参考リンク

無期転換ルールQ&A(福岡労働局HP,PDF)

MORI社会保険労務士・行政書士事務所(千葉県千葉市)では、日々生じる従業員に関する問題やちょっとした労働法に関する疑問、他社事例について、気軽に電話やメールで相談できる「労務相談」業務の依頼を受託しています。もちろん無期転換ルールに関するご相談、給与計算、労働・社会保険、就業規則、各種許認可業務等も対応します。

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