image152厚生労働省は、全国の労働基準監督署が平成25年4月から平成26年3月までの間に、労働者からの申告や各種情報に基づき監督等を行い、その是正を指導した結果、不払になっていた割増賃金が支払われたもののうち、その支払額が1企業で合計100万円以上となった事案の状況を取りまとめ、公表しました

ポイントは以下のようなものです。

  • 是正企業数 1,417企業 (前年度比140企業の増)
  • 支払われた割増賃金合計額 123億4,198万円(同18億8,505万円の増)
  • 対象労働者数 11万4,880人(同12,501人の増)
  • 支払われた割増賃金の平均額は1企業当たり871万円、労働者1人当たり11万円
  • 割増賃金を1,000万円以上支払ったのは201企業で全体の14.2%、その合計額は87億3,142万円で全体の70.7%
  • 1企業での最高支払額は「4億5,861万円」(その他の事業)、次いで「4億5,056万円」(小売業)、「3億6,671万円」(飲食店)の順
 さて、下記関連サイトには、労基署の武勇伝のような、指導事例が掲載されています。その一つは次のようなものです。

賃金不払い残業の状況

会社は、始業・終業時刻を労働者本人に労働時間管理システムに入力させる方法により把握し・・・ていた。しかし、・・・時間外労働時間に上限が設けられ、この上限を超えた時間外労働に対する割増賃金が支払われていなかった。さらに、客観的に記録された入出門時刻と入力されていた労働時間に数時間の相違がある労働者が多数認められ、かつ、その相違について合理的な説明もなされなかった。

監督署の指導内容

監督署は、確認した賃金不払残業について是正を勧告するとともに、事業主に対し、①賃金不払残業について実態調査を実施・・・(する)こと、②・・・労働時間管理の方法について改善方策を検討することなどについて指導した。

会社が実施した解消策

会社は、労働者に調査票を配付して、過去の時間外労働時間を自己申告させる調査を行い、不払となっていた割増賃金(約330人に対する合計約18,000時間分)を支払った。

また、①・・・労働時間の状況について、毎月の経営会議にて確認・審議を行い、必要に応じて経営幹部から是正措置を指示する、②管理職を対象に、労働時間管理の方法に関する説明会を実施する、③さらに管理職が行う労働時間管理が適正になされているかについて、人事部門がチェックを行うなどの改善策を講じた。

特に金額は明らかになっていませんが、支払った時間数から数千万円になったのではないでしょうか。特にこの事例を挙げたのは、気を付けたいポイントが2つ含まれているためです。

一つは、時間外労働時間に上限が設けられていること、もう一つは入出門時間と本人が入力した始業・終業時刻に差があったことです。どちらも、しばしば見かける事例ですので、注意が必要です。

ところで、時間外労働時間に上限を設け、実際に超過した時間について賃金を支払わないことは、法違反であることは明らかです。では、、時間外労働時間を抑制するために一定の時間数を「目標」として設けることも問題があるのでしょうか。

これについて、下級審ではありますが、36協定の順守と健康管理上の必要から所属長が個人別に目標時間を設定していたことについて、その運用状況を勘案して、時間外労働が目標時間の範囲内に収まるよう実際と異なる虚偽の報告を強制されていたという労働者側の主張が退けたものがあります(ヒロセ電機事件・東京地判H25.5.22)。本事例では、実際に目標時間を上回る場合があったことも、実質的な上限時間ではなかったと認められる要因の一つだったと考えられます。

このように、名称ではなく実質的に上限時間となっているかどうかがポイントになると考えます。目標と呼んでいても、実質的に上限時間となっていれば、賃金不払と認められるでしょう。また、このように目標を設定する場合は、その趣旨(三六協定遵守、健康管理など)を明らかにし、こを超える時間外労働については割増賃金を支払わないという意味ではないことを説明できるような担保があれば望ましいことは言うまでもないでしょう。

■関連リンク

監督指導による賃金不払残業の是正結果(平成25年度)(厚生労働省HP)

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