今回の記事をざっくり言うと・・・

  • 中小企業の60時間超の時間外労働について、割増率が50%へ引き上げられる見込み(3年の経過措置あり)
  • 36協定に特別条項を定める場合、新たに「健康確保措置」に関する項目が追加される見込み

image144前回に引き続き、「今後の労働時間法制等の在り方について」を元に、労働基準法の改正の方向について取り上げます。なお、これまでの記事はこちらです。

平成27年改正に向け労働時間法制の見直し報告書案が公表~労働時間報告①~

高度プロフェッショナル制度固まる~労働時間報告②~

今回は、「長時間労働抑制策」として挙げられたもののうち、次の2つを中心に見ていきましょう。

  1. 中小企業における月 60 時間超の時間外労働に対する割増賃金率の適用猶予の見直 し
  2. 36協定記載事項に関する見直し

1.中小企業における月 60 時間超の時間外労働に対する割増賃金率の適用猶予の見直

これは、実際には、今回の改正で最もインパクトのあるものの一つだと思います。

現在、労働者に法定労働時間を超える時間外労働をさせた場合には、会社は割増賃金を支払う必要があり、その割増率は25%以上、さらに1ヶ月に60時間を超える時間については50%以上と定められています。

ただし、現行の労基法では、中小企業については、時間外労働60時間超について50%とする規定は適用を猶予されていました。

しかし、今回明らかになった報告書では、この猶予措置を撤廃することが盛り込まれました。それは、「中小企業労働者の長時間労働を抑制し、その健康確 保等を図る」ためとされています。

なお、本報告書に基づく労基法改正は平成28年4月の施行が目指されているところ、この適用猶予の見直しについては、「法改正事項の施 行の3年後となる平成 31 年4月とすることが適当」とされており、当面の間はこの猶予措置が継続する見込みです。

2.36協定記載事項の見直し

報告書では、36協定の特別条項を協定する場合の様式を定め、その「様式には告示上の限度時間を超えて労働する場合の特別の臨時的な事情、労使がとる手続、特別延長時間、特別延長を行う回数、限度時間を超えて 労働した労働者に講ずる健康確保措置及び割増賃金率を記入することとすることが適当」とされました。

これらのほとんどが従前より特別条項に記載しなければならなかったものですが、その中で今回追加されたのが、「限度時間を超えて労働 した労働者に講ずる健康確保措置」です。そして、この健康確保措置については、「望ましい内容を通達で示すことが適当」とされています。

なお、措置の実施状況等に係る 書類を作成し、3年間確実に保存しなければならない旨を告示に規 定することが適当とされています。

3.まとめ

報道などでは、前回取り上げた「高度プロフェッショナル制度」がチヤホヤされていますが、今回取り上げた事項の方が実際的な影響は大きいように思われます。特に36協定の記載事項については、4月1日を起算日としている会社も多いと思われますので、今回の改正法が無事成立した暁には、施行通達の発出について十分注意する必要があります(ここのニュースを見ていていただければ、そんなに遅くない時期に確認できると思いますよ♪←宣伝)

4.おまけ

報告書には、月60時間超の時間外労働に対する50%以上の割増賃金に関して、やや唐突な指摘があります。

それは、「週休制の原則等を定める労働基準法第 35 条が、必ずしも休日を特定すべきことを 求めていないことに着目し、月 60 時間超の時間外労働に対する5割以上の割増賃金 率の適用を回避するために休日振替を行うことにより、休日労働の割増賃金率であ る3割5分以上の適用を推奨する動向については、法制度の趣旨を潜脱するもので あり、本分科会として反対する」という部分です。

これは、審議会において労働者側委員が、次のような指摘をしたことに由来するようです。

私が気にしておりますのは、実はこの労働時間に関する専門書、これは・・・経営側が委任されるの有名な弁護士さんが書かれている定番としての専門書があります。実は、その専門書の中に、・・・「1カ月の時間外労働が60時間を超えるに至るときには、使用者は労働者を働かせる日を『法定休日』としてしまうことで、50%という高率での割増発生を回避し、休日労働に対する割増率(35%)の支払いに留めることによって、差額の15%の支払いを免れることができる」といったことが書かれてあるのですね。

・・・現在広く読まれている本の中に、そういう法のまさしく僭脱といいますか、そのようなことを指導するものがあって、しかもそれは経営側の重鎮の弁護士の方が書かれている本で、かなり影響力があるということであります。そういった法の僭脱が現場でなされているのではないかという懸念を私どもは持っているということです。

この重鎮弁護士とは誰か!?ということが言いたいのではなく、この点については、通達にしっかり記載されることになる見込みです。

※本記事内容は、法改正の前段にあたる建議に基づくものです。したがって、今後の法案作成や国会の議論を通じて内容が変更される場合があることをご了解ください。

■関連リンク

第124回労働政策審議会労働条件分科会資料(厚生労働省HP)

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