働き方改革推進法の付帯決議の続きを読んでいくことにしましょう。

世界の労働基準監督署からVOL016:東金労働基準監督署

二十七、高度プロフェッショナル制度に関し、それが真に制度の適用を望む労働者にのみ適用されることを担保するためには、本人同意の手続の適正な運用が重要であることから、提供されるべき情報や書面での確認方法を含め、本人同意に係る手続の要件等について指針等において明確に規定するとともに、本人同意が適正に確保されることについて決議の届出の際に労働基準監督署において確認すること。また、使用者に対して、同意を得る際には不同意に対していかなる不利益取扱いもしてはならないこと、労働者が同意を撤回する場合の手続についても明確に決議した上で、同意の撤回を求めた労働者を速やかに制度から外すとともに、いかなる不利益取扱いもしてはならないことについて、周知徹底し、監督指導を徹底すること。

高度プロフェッショナル制度は、働き方改革推進法の最大の争点でした。国会での議論で撤回することができる旨が追加される修正が行われましたが、この項では、適用の場面を含めて、意思確認の手続きを指針等で定めることを求めるものです。

二十八、高度プロフェッショナル制度においても、使用者の労働者に対する安全配慮義務は課されることを踏まえ、労働基準監督署は、高度プロフェッショナル制度適用労働者の健康管理時間の把握・記録に関して、当該使用者に対して、適切な監督指導を行うこと。

高プロ適用者についても安全配慮義務が生じるのは当然です。本項は、臨検の際に「健康管理時間」に関する指導を求めるものです。もっとも、健康管理時間が長時間に及んでいる場合であっても、それがただちに法違反とはならないため、是正勧告を出すことはできないのではないでしょうか。

二十九、高度プロフェッショナル制度を導入するに当たっての労使委員会における決議については、その制度創設の趣旨に鑑み、有効期間を定め、自動更新は認めないことを省令等において規定すること。加えて、本人同意については、対象労働者としての要件充足を適正に確認するためにも、短期の有期契約労働者においては労働契約の更新ごと、無期又は一年以上の労働契約においては一年ごとに合意内容の確認・更新が行われるべきであることを指針に規定し、監督指導を徹底すること。

高プロに関する決議は自動更新は禁止し、定期的に合意内容の確認・更新を行うことを指針に定めることを求めるものです。

三十、高度プロフェッショナル制度の具体的な実施の在り方については、多くの事項が省令に委任されていることから、委員会審査を通じて確認された立法趣旨や、本附帯決議の要請内容を十分に踏まえ、労働政策審議会における議論を速やかに開始し、省令等に委任されている一つ一つの事項について十分かつ丁寧な審議を行い、明確な規定を設定するとともに、対象事業主や労働者に対して十分な周知・啓発を行い、併せて監督指導する労働基準監督官等に対しても十分な教育・訓練を行うこと。

三十一、高度プロフェッショナル制度に関して、政府は、三年を目途に、適用対象者の健康管理時間の実態、労働者の意見、導入後の課題等について取りまとめを行い、本委員会に報告すること。

高プロについて3年をめどに実態調査を行うことを求めるものです。

三十二、パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法の三法改正による同一労働同一賃金は、非正規雇
用労働者の待遇改善によって実現すべきであり、各社の労使による合意なき通常の労働者の待遇引下げは、基本的に三法改正の趣旨に反するとともに、労働条件の不利益変更法理にも抵触する可能性がある旨を指針等において明らかにし、その内容を労使に対して丁寧に周知・説明を行うことについて、労働政策審議会において検討を行うこと。

有期契約労働者・パートタイム労働者について不合理な労働条件の相違を禁止することが定められますが、その相違の解消方法として、正社員の待遇を引き下げる方法を採ることに関する懸念を表明するものです。就業規則による労働条件の不利益変更を行う場合には、慎重に対応する必要があります。

三十三、低処遇の通常の労働者に関する雇用管理区分を新設したり職務分離等を行ったりした場合でも、非正規雇用労働者と通常の労働者との不合理な待遇の禁止規定や差別的取扱いの禁止規定を回避することはできないものである旨を、指針等において明らかにすることについて、労働政策審議会において検討を行うこと。

不合理な労働条件の禁止は、均衡待遇を求ているため、職務が違うのであればその違いに応じた労働条件とする必要があるということだと思われます。

三十四、派遣労働者の待遇決定に関して以下の措置を講ずること。

  1. 派遣労働者の待遇決定は、派遣先に直接雇用される通常の労働者との均等・均衡が原則であって、労使協定による待遇改善方式は例外である旨を、派遣元事業主・派遣先の双方に対して丁寧に周知・説明を行うこと。
  2. 労使協定の記載事項の一つである「派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額」に関して、同等以上の賃金の額の基礎となる「一般の労働者の平均的な賃金の額」は、政府が公式統計等によって定めることを原則とし、やむを得ずその他の統計を活用する場合であっても、「一般の労働者の平均的な賃金の額」を示すものとして適切な統計とすることについて、労働政策審議会において検討を行うこと。
  3. 労使協定における賃金の定めについては、対象派遣労働者に適用する就業規則等に記載すべきものである旨を周知徹底すること。
  4. 労使協定で定めた内容を行政が適正に把握するため、派遣元事業主が、労働者派遣法第二十三条第一項に基づく事業報告において、改正労働者派遣法第三十条の四に定めている五つの労使協定記載事項を、それぞれ詳しく報告することとし、その内容を周知・徹底することについて、労働政策審議会において検討を行うこと。

派遣労働者に関しては、原則として派遣「先」の正社員との均等・均衡を求める内容となっていますが、例外として定められた労使協定による待遇改善方式が多用されることになると思います。本決議は、その場合の統計が適正なものとなるよう労政審での検討を求めており、今後このテーマで議論が行われると見られます。さらに労使協定方式による場合は、就業規則等にその旨を記載するべきとしています。

また、事業報告書にその内容についてくわしく報告することが義務付けられるようです。来年度から様式変更があると思われます。

三十五、使用者が、非正規雇用労働者に通常の労働者との待遇差を説明するに当たっては、非正規雇用労働者が理解できるような説明となるよう、資料の活用を基本にその説明方法の在り方について、労働政策審議会において検討を行うこと。

今回、有期・パート労働者に対する待遇差の説明義務が盛り込まれましたが、その説明方法についても指針、ガイドラインが出ることになりそうです。

三十六、「働き方改革」の目的、及び一億総活躍社会の実現に向けては、本法が定める均等・均衡待遇の実現による不合理な待遇差の解消とともに、不本意非正規雇用労働者の正社員化や無期転換の促進による雇用の安定及び待遇の改善が必要であることから、引き続き、厚生労働省が策定する「正社員転換・待遇改善実現プラン」等の実効性ある推進に注力すること。

三十七、労働契約法第十八条の無期転換権を行使した労働者について、労働契約法による無期転換の状況等を踏まえ、必要な検討を加えること。

三十六は、確認的な内容といってよいでしょう。

三十七は、制度の谷間になってしまっている正社員でない無期・フルタイム社員に関する対応を求めるものといえます。

参考リンク

「働き方改革」の実現に向けて(厚生労働省HP)

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