今回の記事、ざっくり言うと

  • 厚生労働省が「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置 に関するガイドライン」 を策定
  • 本ガイドラインでは、自己申告制の対象となる労働者に対して、労働時間 の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行 うことなど、従来4・6通達で示されていたもののほか、新たに改定された部分を含んでいる

※写真は本文の内容とは関係ありません。

厚生労働省は「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置 に関するガイドライン」 を策定しました。ガイドラインは、従来いわゆる4・6通達と呼ばれるものをベースにして策定されたもののようです。

本ガイドラインでは、まず、「使用者は、労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責務を有している」としたうえで、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべ き措置を具体的に明らかにする」としたものです。

ガイドラインでは、4・6通達にはなかった、「労働時間の考え方」についても言及しています。すなわち、労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たるとされています。

そして、次の1から3のような時間は、労働時間として扱わなければならないこ ととされています。

  1. 使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間
  2. 使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)
  3. 参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の 指示により業務に必要な学習等を行っていた時間

この上で、使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、原則として次のいず れかの方法によることが、4・6通達と同じように示されています。

  1. 使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること。
  2. タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎 として確認し、適正に記録すること。

そして、上記の方法によることなく、自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合、 使用者は次の措置を講ずることが定められています。

まず、自己申告制の対象となる労働者に対して、本ガイドラインを踏まえ、労働時間 の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行 うことです。

次に、実際に労働時間を管理する者に対して、自己申告制の適正な運用を含め、本 ガイドラインに従い講ずべき措置について十分な説明を行うことです。これは、4・6通達にはなかった内容です。

第3に、自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かに ついて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすることです。特に、入退場記録やパソコンの使用時間の記録など、事業場内にいた時間の分かるデータを有している場合に、労働者からの自己申告により把握した労働時間と当該データで分かった事業場内にいた時間との間に著しい乖離が生じてい るときには、実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすることとされました。4・6通達では、「実態調査」までは示されていましたが、「補正」、さらに自己申告による労働時間と、事業場内にいた時間との間に著しいかい離が生じている場合に関する内容が今回追加されました。

第4に、自己申告した労働時間を超えて事業場内にいる時間について、その理由等を労働者に報告させる場合には、当該報告が適正に行われているかについて確認することです。その際、休憩や自主的な研修、教育訓練、学習等であるため労働時間ではな いと報告されていても、実際には、使用者の指示により業務に従事しているなど 使用者の指揮命令下に置かれていたと認められる時間については、労働時間と して扱わなければなりません。

第5に、自己申告制は、労働者による適正な申告を前提として成り立つものであるため、使用者は、労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、 上限を超える申告を認めない等、労働者による労働時間の適正な申告を阻害す る措置を講じてはならないことです。 また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害す る要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合 においては、改善のための措置を講じます。

ここまでは、4・6通達とほぼ同様ですが、本ガイドラインでは、さらに、いわゆる 36 協定により延長することができる時間数を遵守すること、実際には延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわ らず、記録上これを守っているようにすることが、実際に労働時間を管理する者 や労働者等において、慣習的に行われていないかについても確認することが追加されました。

このように、本ガイドラインは4・6通達を近年の動向をふまえて改定したもののようです。特に、自己申告については改定内容が多く、今後の臨検等でも指導が厳しくなることも予想されますので、自己申告制により労働時間を把握している場合には、内容を十分に確認するようにしましょう。

参考リンク

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(平成29年1月20日策定、厚労省HP)

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