今回の記事、ざっくり言うと・・・

  • 最高裁判決で、管理職者のセクハラに対する会社の出勤停止の懲戒処分・人事権に基づく降格処分がともに有効と認められた

 

image132先日、「マタハラ」に関する最高裁判決を紹介しましたが、それほど期間を開けずに、再びハラスメントに関する労働裁判が新聞で大きく取り上げられるとは思いませんでした。

今回のテーマは、「セクハラ」です。

この事件は,管理職である男性従業員ら(2名)が、複数の女性従業員に対してセクハラ等をしたことを懲戒事由として、出勤停止処分を受けるとともに,これらを受けたことを理由に下位の等級に降格されたことから、出勤停止処分の無効および各降格前の等級を有する地位に あることの確認等を求めて提訴されたものです。

まず、この裁判は会社vs労働者(男性従業員)であるということを確認する必要があるでしょう。女性従業員が会社や男性従業員に対して損害賠償を求めたものではなく、セクハラの加害者が、会社の処分を不服として争われているということです。

本判決文を読んだ正直な感想は、懲戒処分が有効となることについてはなるほどそうだろうなと思う一方、降格については、そこまでOKなのかと意外に思うものでした。では、早速内容をみていきましょう。

少し遡って原審、つまり高裁判決について、みてみましょう。原審では、懲戒処分等が「 酷に過ぎる」とされて無効とされました。つまり会社の懲戒処分が無効とされた裁判です。最高裁判決からの引用ですが、つぎのような理由が挙げられています。

  1. 女性従業員から明確な拒否の姿勢を示されておらず、本件各行為のような言動も同人から許されていると誤信していたこと
  2. 男性従業員らが懲戒を受ける前にセクハラに対する懲戒に関する会社の具体的な方針を 認識する機会がなく,本件各行為について会社から事前に警告や注意等を受けていなかったこと

しかし、最高裁は、、上記高裁判決1,2について、次のようにいずれも退けて、出勤停止処分を有効と認めました。

  • 職場におけるセクハラ行為については,職場 の人間関係の悪化等を懸念して,加害者に対する抗議等を差し控えたりちゅうちょしたりすることが少なくないと考えられることや、本事件のセクハラ行為の内容等に照らせば、上記高裁判決1のような事情をもって男性従業員らに有利にしんしゃくすることは相当で はない
  • 男性従業員らにおいて,上記会社の方針等を当然に認識すべきであったといえることに加え、本件各行為の多くが第三者のいない状況で行われていたこと等から事前に警告等を行い得る機会があったとはうかがわれないことか らすれば、高裁判決2ついて男性従業員らに有利にしんしゃくし得る事情があるとはいえない

さらに、その後の降格処分についても、資格等級制度規程に「社員が懲戒処分を受けたことを独立の降格事由として定めている」ことについて、その合理性を認めた上で、本事件の降格処分についても有効と認められ、会社側からすると逆転勝利という結果になりました。

この点は、最初にも書いた通り、少し意外に思われる部分です。もちろんセクハラ行為に肩入れするという意味ではありません。

この事件で行われた降格は、厳密には資格等級の降格と役職の降格の2つです。この事件の当事者である会社でどのような等級制度であったのか、本判決分からは詳しくは分からないのですが、資格等級の降格は無効とされた裁判例も少なくありません。「意外」に思ったのも、このような理由があるためです。

さらに蛇足を言えば、懲戒処分として出勤停止と降格が決定されれば「二重処罰の禁止」の原則に抵触し、無効となったように思われますが、出勤停止の懲戒処分と、それを理由とする人事権の行使による降格処分となるように就業規則を規定すれば、事実上二重罰を課すこともできるのではないかと思うわけですが、この点も、もう少しこの制度内容が分からないとこれ以上のコメントは難しいように思われます。

それよりも、まずこの裁判例の教訓として重要なのは、会社のセクハラ防止に関する取組みが、違反行為に対する懲戒処分の有効性を強めていることでしょう。これにより、管理職であった男性従業員に対して、会社の「方針や取組を十分に理解し, セクハラの防止のために部下職員を指導すべき立場にあったにもかかわらず」、セクハラ行為を繰り返したことについて「その職責や立場に照ら しても著しく不適切なものといわなければならない」という判断につながったものと考えます。

要するに、懲戒処分を行う場合には、就業規則にその事由が書いてあることは必要条件ではあるが十分条件ではないということです。日常の指導・教育等を行うことで、それにも拘わらず違反行為を行った社員については、当然その分違反性も強まり、懲戒処分の有効性も強まるということになるわけです。

このことは社員の納得性にもかかわる問題です(納得していればトラブルになることはない)。その意味で、本判決は、会社の教育指導の重要性が再確認させる裁判例ということもできるでしょう。

※本記事については、若干立入った部分もあり、当事務所の私見も大いに含まれていることにご留意ください。

■関連リンク

最高裁判例(裁判所HP)

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