今回の記事、ざっくり言うと・・・

  • 高度プロフェッショナル制度導入のためには、労使委員会で5分の4以上の決議が必要
  • 対象業務は金融商品開発業務、コンサルタントの業務等
  • 対象労働者の年収要件は1045万円を参考に施行規則で決められる
  • 本制度の対象者については、深夜割増賃金も含めて割増賃金の支払い義務がない

image065今回は、次の労働基準法などの改正の原案となる「今後の労働時間法制の在り方について」から、報道でも取り上げられている「高度プロフェッショナル制度」についてみていきたいと思います。

この新しく創設される制度は、「一定の年収要件を満たし、職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する労働者を対象として、長時間労働を防止するための措置を講じつつ」、36協定の締結や時間外・休日・深夜の割増賃金の支払義務等の適用を除外 した労働時間制度の新たな選択肢として、設けられるものです。なお、深夜割増賃金が不要となる初めてのカテゴリーとなります。

1.本制度導入の要件

制度の導入に際しての要件として、労使委員会を設置し、以下の事項を5分の4 以上の多数により決議し、行政官庁に届け出なければならないこととすることが適当とされました。

  1. 対象業務の範囲
  2. 対象労働者の範囲
  3. 対象業務に従事する対象労働者の健康管理時間を使用者が把握すること及びその把握方法
  4. 健康管理時間に基づく健康・福祉確保措置の実施苦情処理措置の実施
  5. 対象労働者の不同意に対する不利益取扱の禁止

これらをどのような内容で決議するのかについて、報告書を元に、すこし詳しく見ていきましょう。

2.対象業務の範囲

本制度の対象となる業務は、「高度の専門的知識、技術又は経験を要する」とともに「業務に従事した時間と 成果との関連性が強くない」といった対象業務とするに適切な性質のあるもので、具体的には、次の業務を念頭に、法案成立後に施行規則によって規定するとされています。

  • 金融商品の開発業務
  • 金融商品のディーリング業務
  • アナリストの 業務(企業・市場等の高度な分析業務)
  • コンサルタントの業務(事業・業務の企画 運営に関する高度な考案又は助言の業務)
  • 研究開発業務

2.対象労働者の範囲

高度プロフェッショナル制度の対象となる労働者は、次の通りです。

  • 使用者との間の書面による合意に基づき職務の範囲が明確に定められ、その職務の範囲内で労働する労働者
  • 対象労働者の年収については、1075 万円を参考に、法案成立後、施行規則で規定される

なお、制度の導入に際しての要件として、対象労働者の範囲に属する労働者ご とに、職務記述書等に署名等する形で職務の内容・制度適用についての同意を得なければならないとされています。

3.対象業務に従事する対象労働者の健康管理時間を使用者が把握すること及びその把握方法

本制度の適用労働者については、労働時間を把握す る必要はないが、会社は、「事業場内に 所在していた時間」と「事業場外で業務に従事した場合における労働時間」との合 計(健康管理時間)を把握した上で、これに基づく健康・福祉確保措置を講じることとすることが適当とされましたである。

なお、健康管理時間の把握方法については、タイムカードやパソコンの起動時間等の客観的な方法によることを原則と し、事業場外で労働する場合に限って自己申告を認める旨を規定することが適当とされました。

4.健康管理時間に基づく健康・福祉確保措置の実施

健康管理時間に基づく健康・福祉確保措置について、以下のいずれかの措置を講じるとものとされています

  1. 労働者に 24 時間について継続した一定の時間(施行規則で規定)以上の休息時間を与えるものとし、 かつ、1か月について深夜業は一定の回数(前同)以内とすること。
  2. 健康管理時間が1か月又は3か月について一定の時間(前同)を超えないこととするこ と。
  3. 4週間を通じ4日以上かつ1年間を通じ 104 日以上の休日を与えることとする こと。

また、本制度の適用労働者であって、その健康管理時間が1週間当たり 40 時間を超えた場合のその超えた時 間が1月当たり 100 時間を超えた労働者について、一律に面接指導の対象とすることなどを規定することが適当とされました。

5.まとめ

このように、高度プロフェッショナル制度は、現在採用率がきわめて低い(H26で採用率0.8%)企画裁量労働時間制に似た設計となっています。このことと、現時点で明らかになっている対象業種からして、導入するのは一部に限られ、特に中小企業ではあまり使われないのではないかと思われます。

導入する場合、就業規則・賃金規程の改定、職務記述書の作成、労使委員会がなければ同委員会の運営規程の制定など多くの準備を要することになるでしょう。

ところで、本報告書で気になるのは、健康・福祉確保措置で挙げられた制度は、今後の労働時間規制に入りそうなメニューとなっていることです(なお、勤務間インターバルは今後も検討される見込みです)。私見では、将来的には、本制度の適用対象労働者は徐々に拡大されるとともに、ここで挙げられた健康・福祉確保措置の適用対象も拡大されるのではないでしょうか。

■関連リンク

労働政策審議会建議「今後の労働時間法制等の在り方について」を公表します(厚生労働省HP)

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