労働者派遣と請負とでは、労働者の安全衛生の確保、労働時間管理等に関して、雇用主(派遣元事業主、請負事業者)、派遣先および注文主が負うべき責任が異なっています。このため、業務の遂行方法について労働者派遣か請負かを明確にするため「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」が策定されており、形式的な名称でなく実態に即して判断されるとされています。これに関連して、厚生労働省が同基準にかかる疑義応答集の第3集を公開しました。

今回の疑義応答集は、近年増加するいわゆる「アジャイル型開発」とよばれる形態における労働者派遣と請負の区分に関するものです。アジャイル型開発とは、一般に、開発要件の全体を固めることなく開発に着手し、市場の評価や環境変化を反映して開発途中でも要件の追加や変更を可能とするシステム開発の手法であり、短期間で開発とリリースを繰り返しながら機能を追加してシステムを作り上げていくもので、発注者側の開発責任者と発注者側および受注者側の開発担当者が対等な関係の下でそれぞれの役割・専門性に基づき協働し、情報の共有や助言・提案等を行いながら個々の開発担当者が開発手法や一定の期間内における開発の順序等について自律的に判断し、開発業務を進めることを特徴とするものとされています。

本応答集では、アジャイル型開発のようなシステム開発の場合でも、適正な請負等と判断されるためには、実態として、発注者側と受注者側の開発関係者(発注者側の開発責任者と発注者側および受注者側の開発担当者を含みます。)が「対等な関係の下で協働し、受注者側の開発担当者が自律的に判断して開発業務を行っていると認められる場合には、受注者が自己の雇用する労働者に対する業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行い、また、請け負った業務を自己の業務として契約の相手方から独立して処理しているものとして、適正な請負等」といえるとされました。

この部分が重要なところで、たとえば、発注者側の開発責任者はプロダクトバックログ(開発対象に係る機能等の要求事項の一覧)の内容やその優先順位の決定を行い、開発手法やスプリント(開発業務を実施するための一定の区切られた期間)内における開発の順序等については開発担当者がその専門的な知見を活かして自律的に判断し開発業務を進めるのが通常であるところ、「発注者側の開発責任者から、受注者側の開発担当者に対し、直接、プロダクトバックログの詳細の説明や、開発担当者の開発業務を円滑に進めるための情報提供を行う場合」については、「両者が対等な関係の下で協働し、受注者側の開発担当者が自律的に開発業務を進めている限りにおいては、そのプロセスにおいて、発注者側の開発責任者が受注者側の開発担当者に対し、その開発業務の前提となるプロダクトバックログの内容についての詳細の説明や、開発業務に必要な開発の要件を明確にするための情報提供を行った」ことだけをもって直ちに偽装請負と判断されるものではないとされました。開発チーム内のコミュニケーションにおける技術的な議論や助言・提案する場合や、会議や打ち合わせ、あるいは、連絡・業務管理のための電子メールやチャットツール、プロジェクト管理ツール等の利用において、発注者側および受注者側の双方の関係者全員が参加した場合も同様とされています。

一方、発注者が特定の者を指名して業務に従事させたり、特定の者について就業を拒否したりする場合は、発注者が受注者の労働者の配置等の決定及び変更に関与していると判断されることになり、適正な請負等とは認められないとされました。

なお、「偽装請負と判断される事態が生じないよう、「発注者側と受注者側の開発関係者のそれぞれの役割や権限、開発チーム内における業務の進め方等を予め明確にし、発注者と受注者の間で合意しておくことや、発注者側の開発責任者や双方の開発担当者に対して、アジャイル型開発に関する事前研修等を行い、開発担当者が自律的に開発業務を進めるものであるというようなアジャイル型開発の特徴についての認識を共有しておくようにすること等が重要」とされています。

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参考リンク

労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(37号告示)関係疑義応答集(厚生労働省HP)