現在、厚生労働省の労働政策審議会雇用環境・均等分科会では、職場におけるハラスメント防止対策の強化について議論が行われています。特に「カスタマーハラスメント」と「就活等セクシュアルハラスメント」に関する措置も検討されており、注目されています。そこで、今回は令和6年12月26日の議論もふまえつつ、カスタマーハラスメントがどのように考えられているのか、みていきましょう。

厚生労働省の案では、「カスタマーハラスメントは労働者の就業環境を害するものであり、労働者を保護する必要があることから、カスタマーハラスメント対策について、事業主の雇用管理上の措置義務とすることが適当」とされており、今後はカスハラ対策も企業の義務となることが見込まれています。

では、企業が対策をするべき「カスタマーハラスメント」の定義はどのように考えられているのでしょうか。

カスタマーハラスメントの定義については、以下に掲げる事項を指針等で示すことが適当とされています。

ⅰ.顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行うこと。

ここでは、顧客、取引先、施設利用者のような典型的な加害者を含め「利害関係者」を行為者としています。「利害関係者」については、「様々な者が行為者として想定されることを意図するものであり、法令上の利害関係だけではなく、施設の近隣住民等、事実上の利害関係がある者も含むと考えられる」とされています。

ⅱ.社会通念上相当な範囲を超えた言動であること。

ここがカスタマーハラスメントに該当するかどうかの重要なポイントです。すなわち、「権利の濫用・逸脱に当たるようなものをいい、社会通念に照らし、当該顧客等の言動の内容が契約内容からして相当性を欠くもの、又は、手段・態様が相当でないものが考えられる」とされています。ここは元々「権利の濫用・逸脱に当たるものをいい」と書いてありましたが、「権利の濫用・逸脱に当たるようなものをいい」と修正されました。これは、「社会通念上相当な範囲を超えた言動について、権利の概念に照らしてどういう位置付けになるかということに必ずしもとらわれることなく、ハラスメントという観点から問題があるものと捉えて是正を図っていくということもあるのではないか」という指摘を受けたことによる修正とされています。

「社会通念上相当な範囲を超えた言動」の判断については、「言動の内容」及び「手段・態様」に着目し、総合的に判断することが適当であり、一方のみでも社会通念上相当な範囲を超える場合もあり得ることに留意が必要とされています。なお、これには性的な言動等が含まれ得るものとされています。

ⅲ.労働者の就業環境が害されること。

これは、労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じるなどの、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを意味するとされています。しかし、苦痛を感じるかどうかは人によっても異なります。そこで、「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、「同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうか」を基準とすることが適当とされました。

このように、現在、厚生労働省ではカスタマーハラスメントの防止措置を義務付けることを検討しています。カスタマーハラスメントは下図のように、従業員にも深刻な悪影響を及ぼすものですので、会社としても重要な課題になります。

その際には、カスタマーハラスメントの定義が重要になりますので、現在厚労省で検討されている定義は参考になります。

カスタマーハラスメントについては、その行為者が顧客や取引先等の第三者であるということを考慮した上で、①顧客等からのクレームの全てがカスタマーハラスメントに該当するわけではなく、客観的にみて、社会通念上相当な範囲で行われたものは、カスタマーハラスメントに当たらないこと、②カスタマーハラスメント対策を講ずる際、消費者の権利等を阻害しないものでなければならないことや、障害者差別解消法に基づく合理的配慮の提供義務を遵守する必要があることは当然のこと、③各業法等によりサービス提供の義務等が定められている場合等があること、④事業主が個別の事案についての相談対応等を行うに当たっては、労働者の心身の状況や受け止めなどの認識には個人差があるため、丁寧かつ慎重に対応をすることが必要であることなどが、示されることとされています。

そのうえで、講ずべき措置の具体的な内容として、以下のものが挙げられています。

  • 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
  • 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
  • カスタマーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応(カスタマーハラスメントの発生を契機として、カスタマーハラスメントの端緒となった商品やサービス、接客の問題点等が把握された場合には、その問題点等そのものの改善を図ることも含む。)
  • これらの措置と併せて講ずべき措置

なお、他の事業主から事業主の講ずる雇用管理上の措置の実施に関し必要な協力を求められた場合には、これに応ずるように努めなければならないと、努力義務の規定が追加される予定です。

お問い合わせはお気軽に。043-245-2288

参考リンク

第79回労働政策審議会雇用環境・均等分科会(厚生労働省HP)