厚生労働省が、9月30日付でスタートアップ企業で働く者や新技術・新商品の研究開発に従事する労働者への労働基準法の適用に関する解釈を発出しました。
本通達は、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024 改訂版」において、「スタートアップ等の労働者や新技術・新商品の研究開発等に従事する労働者に対する裁量労働制等の運用明確化等を図る」とされたことをふまえて、スタートアップ企業で働く者が労働者に該当するか否か、および、管理監督者等に該当するか否かの判断における基本的考え方について、並びに新技術・新商品の研究開発に従事する労働者に係る労働基準法第36 条第11 項及び第38 条の3の適用に関する判断の考え方について、示したものです。
本通達では、はじめに「企業の創業年数にかかわらず労基法を遵守すべきことは言うまでもない」とする原則を確認したうえで、スタートアップ企業における働き方の特徴を踏まえたうえで、基本的考え方を示すものとされています。
はじめに「労働者」への該当性についてです。
本通達では、労基法上の労働者に該当するか否かは、「契約の形式や名称にかかわらず、使用従属性の有無等によって判断される」とする原則を確認したうえで、「スタートアップ企業の役員(社長や取締役、最高経営責任者(CEOCEO)、最高財務責任者(CFOCFO)等)が労基法上の労働者に該当するか否かについて」は、「一般的には労基法上の労働者に該当しないと考えられる」としつつ、「取締役であっても、取締役就任の経緯、法令上の業務執行権限の有無、取締役としての業務執行の有無、拘束性の有無・内容、提供する業務の内容、業務に対する対価の性質及び額などを総合考慮しつつ、会社との実質的な指揮監督関係や従属関係を踏まえて、当該者が労基法上の労働者であると判断した裁判例(京都地判平27 7 3131)等があることに留意する必要があるとして、実態により判断することを確認的に示しました。
また、役員と判断できる役職がない者であっても、次のような実態があって、使用従属性が認められないと考えられる者については、労基法上の労働者に該当しないと考えられるとされました。
- 組織において特定の部門に在籍せず、職位(職務の内容と権限等に応じた地位)等も与えられていないために、業務遂行上の指揮監督・指示系統に属していない
- 創業時のメンバーなどで、明確な役割分担もなく、創業者と一体となって事業の立ち上げの主戦力として経営に参画する
このように、労働者性の判断については従来の考え方を指名つつも、労基法上の労働者に該当しない例を明示したことには注目すべきでしょう。
次に、管理監督者性についても、通達ははじめに原則論を確認します。すなわち「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者であって、労働時間、休憩及び休日に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にあるかを、職務内容、責任と権限、勤務態様及び賃金等の待遇を踏まえ、実態に即して総合的に判断する」ことが確認します。
そのうえで、具体的には、以下の者であって、定期給与である基本給、役付手当等においてその地位にふさわしい待遇がなされていたり、ボーナス等の一時金の支給率、その算定基礎賃金等についても役付者以外の一般労働者に比し優遇措置が講じられているものは、一般的には管理監督者の範囲に含めて差し支えないものと考えられることが示されました。
- 取締役等役員を兼務する者
- 部長等で経営者に直属する組織の長
- 1及び2と当該企業内において同格以上に位置づけられている者であって、経営上の重要事項に関する企画立案等の業務を担当するもの(全社的なプロジェクト遂行の現場業務を統括する「プロジェクトリーダー※」や、全社的なプロジェクト全体の技術面に特化して統括する立場にある者など)
ここで「プロジェクトリーダー」とは、①プロジェクトチームの構成を決定する権限、②プロジェクトの取引に関する事項を決定する権限、③プロジェクトのスケジュールを決定する権限を有している者をいうとされています。
上記1から3までの中でも、特に3のようにプロジェクトリーダーが管理監督者となる具体例を示したことは、重要なポイントといえるでしょう。もっとも、役職上は部長等に該当する場合であっても、経営や人事に関する重要な権限を持っていない、実際には出社・退社時刻を自らの裁量的な判断で決定できない、給与や一時金の面において管理監督者にふさわしい待遇を受けていないといった場合には、管理監督者には該当しないと考えられるとされていることに留意してください。また、支社や支店の部長等は上記2には該当しないと考えられます。
専門業務型裁量労働制の適用については、たとえば次の業務のように法令で定める業務を行う者については、法令で定める要件を満たす場合には、専門業務型裁量労働制の適用が可能であると考えられます。
- 新商品又は新技術の研究開発の業務
- 事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
最後に、時間外労働の限度時間等の規定が適用されない労基法第36 条第11 項に規定する「新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務」の該当性については、「専門的、科学的な知識、技術を有する者が従事する新技術、新商品等の研究開発の業務をいい、必ずしも本邦初といったものである必要はないが、当該企業において新規のものでなければならず、既存の商品やサービスにとどまるものや、商品を専ら製造する業務などはここに含まれない」とされていることに留意が必要です。
このように、全体を通じて強調されているのは、スタートアップ企業だからといって原則的な考え方は踏襲し、特例は認めないと宣言する内容です。あるいは、このような通達が発出されたことを契機に、今後は創業間もない企業であっても、積極的に労働基準監督署のターゲットにしていく方針を暗に示しているといえるかもしれません。
参考リンク
スタートアップ企業で働く者や新技術・新商品の研究開発に従事する労働者への労働基準法の適用に関する解釈について(令和6年9月30日基発第0930第3号)(厚生労働省HP)