前回に引き続き、不妊治療と仕事の両立支援が重要となるその背景についてみていきましょう。
2022年に日本では77,206人が生殖補助医療により誕生しており、これは全出生児の10.0%に当たり、年々その割合は高まっています。実際に不妊の検査や治療を受けたことがある(または現在受けている)夫婦は22.7%で、これは夫婦全体の4.4組に1組の割合になり、こちらの割合も高まっています。このように、不妊治療を受けることは、現代では決して珍しいケースではなくなってきてます。
しかし、約6割の企業では、不妊治療を行っている社員の把握ができていません。また、約7割の企業で不妊治療を行っている社員が受けられる支援制度等を実施していません。このような状況にあって、不妊治療について、「仕事との両立ができなかった(できない)」とした者の割合は26.1%に上っています。
実際に仕事と不妊治療を両立できずに仕事を辞めたもしくは不妊治療をやめた、または雇用形態を変えた理由は、「待ち時間など通院にかかる時間が読めない、医師から告げられた通院日に外せない仕事が入る」など、仕事の日程調整が難しいため「精神面で負担が大きいため」「体調、体力面で負担が大きいため」が多くなっています。

では、不妊治療と仕事の両立をするうえで、有効な施策とはどのようなものなのでしょうか。不妊治療をしている(または予定している)者の中で、利用した(または利用しようとしている)制度は、「年次有給休暇」が最も多く、次いで「短時間勤務、テレワークなど柔軟な勤務を可能とする制度(勤務時間、 勤務場所)」「通院・休息時間を認める制度」でした。
また、会社や組織等に希望することは、「不妊治療に利用可能な休暇制度」や「有給休暇など現状ある制度を取りやすい環境作り」「通院・休息時間を認める制度」が多く挙げられていますが、その他、「有給休暇を時間単位で取得できる制度」や「上司・同僚の理解を深めるための研修」等も一定程度ニーズがみられます。このように不妊治療と仕事の両立を支援する制度としては、休暇制度が希望が多く、実際多く使われていることがわかりました。したがって、不妊治療と仕事の両立を支援していく上では、これらの制度の導入を検討することが考えられます。
しかし、より自社でニーズの高い制度はなにかを把握するためには、チェックリストやアンケートを活用したり、社員からヒアリングを行ったり、労働組合等が社員の要望を取りまとめたりする場合には、そうした組織と意見交換を行うなどの方法が考えらえられます。
では、具体的に、不妊治療と仕事との両立支援導入するにあたって、どのようなステップが必要か見ていきましょう。たとえば、次のチェックリストで企業内の現状の把握を行い「×」となった項目の参照先のステップの内容を確認することが必要と考えられます。

- 取組方針の明確化、取組体制の整備
- 社員の不妊治療と仕事との両立に関する実態把握
- 制度設計・取組の決定
- 運用
- 取組実績の確認、見直し
ステップ1では、不妊治療と仕事との両立に関し企業として推進する方針を企業トップが示し、講じている休暇制度・両立支援制度とともに社内に周知します。取組体制の整備については、まずは取組を主導する部門や担当者等を決定します。
ステップ2では、不妊治療についての社員の理解度やニーズ等の現状を把握するには、チェックリストやアンケートを活用したり、社員からヒアリングを行ったりするなどの方法があります。
実態把握の方法としては、前掲のチェックリストにより社内の現状を把握した上で、社員の状況については、全社的なアンケートやヒアリング、社員の意識調査や人事面談など従来から実施しているものに不妊治療と仕事との両立に関する事項も含めて行います。
ステップ3では、ステップ2の実態把握を踏まえて、各企業の実態に応じた取組を検討し、制度設計を行います。
既に取り組んでいる企業の中には、不妊治療のための休暇(休職)制度を設けたり、治療費の補助や融資等を行っている企業があります。一方、不妊治療は、頻繁に通院する必要があるものの、1回の治療にそれほど時間がかからない場合もあります。このため、不妊治療に特化するのではなく、年次有給休暇を半日単位や時間単位で取得できるような柔軟な働き方を可能とすることにより、仕事との両立をしやすくする取組を行っている企業もあります。
さらに、不妊治療と仕事との両立に限らず、社員のワーク・ライフ・バランスを実現するためには、通常の働き方の見直しも必要となると考えられます。長時間の残業がない職場や年次有給休暇を取得しやすい職場環境など、社員の通常の働き方の見直しを行うことにより、全ての社員にとって働きやすい職場環境を整備することができます。
ステップ4では、本人からの申出が円滑に行われるよう、不妊治療のための休暇制度・両立支援制度についての情報等を企業内の役員、管理職も含め全社員に周知することが必要です。たとえば、不妊治療と仕事との両立を支援するという企業トップの方針やメッセージを伝えることがあります。
制度運用の要は、それを必要としている社員が気兼ねなく利用できることです。不妊治療だけではなく、育児や介護などの家庭事情と仕事との両立を支援しているという企業の姿勢やメッセージを企業トップが示し、管理職を通して社員に伝えたり、あらゆる機会を活用して社員に周知することが必要です。
不妊治療をしていることにより嫌がらせ等を受けたことがある人がいますが、こうした職場環境は、不妊治療を受けている、または受けようとしている社員に働き続けることへの不安を感じさせたり、制度利用を躊躇させてしまう原因となります。 制度利用の嫌がらせはもとより、利用を躊躇せざるを得ない状況に陥ることはあってはならないことです。
不妊や不妊治療に関することは、その社員のプライバシーに属することですので、社員自身から相談や報告があった場合も、本人の意思に反して職場全体に知れ渡ってしまうことが起こらないように、プライバシーの保護に十分配慮する必要があります。
アンケート調査によると、不妊治療をしていることを何らかの形で伝えている(伝える予定)の者は52.9%で半数を超えていますが、不妊や不妊治療に関することは、その社員のプライバシーに属することですので、社員自身から相談や報告があった場合も、本人の意思に反して職場全体に知れ渡ってしまうことが起こらないように、プライバシーの保護に十分配慮する必要があります。
