最高裁判所が事業場外みなし労働時間制に関して注目の判決を下しました。
本事件は、外国人の技能実習に係る監理団体の指導員だった元従業員が時間外労働、休日労働及び深夜労働に対する賃金の支払を求めて争ったもので。使用者である管理団体は、事業場外で従事した業務の一部については、事業場外みなし労働時間制を定めた労働基準法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるため、所定労働時間労働したものとみなされるなどと主張したため、「労働時間を算定し難いとき」にあたるかどうかが主要な争点とされました。
元従業員が管理団体に在職していたのは、平成28年9月から同30年10月31日まで、業務内容は、担当する九州地方各地の実習実施者に対し月2回以上の訪問指導を行うほか、技能実習生のために、来日時等の送迎、日常の生活指導や急なトラブルの際の通訳を行うなどの業務に従事していました。
原審では、元従業員の業務の性質、内容等からみると、管理団体が元従業員の労働時間を把握することは容易でなかったものの、業務日報を通じ、業務の遂行の状況等につき報告を受けており、その記載内容については、必要であれば実習実施者等に確認することもできたため、ある程度の正確性が担保されていたといえるとして、「労働時間を算定し難いとき」に該当せず、事業場外みなし労働時間制の適用を否定しました。
これに対して最高裁は、以下のように判示して、原審判決の一部を破棄し、高裁に差し戻しました。
判決では、はじめに元従業員の業務について、①多岐にわたるものであったこと、②自ら具体的なスケジュールを管理しており、所定の休憩時間とは異なる時間に休憩をとることや自らの判断により直行直帰することも許されていたこと、③随時具体的に指示を受けたり報告をしたりすることもなかったこと、などを指摘して、従業員の事業場外における勤務の状況を具体的に把握することが容易であったと直ちにはいい難いと判示しました。
また、高裁が正確性が担保されていたと評価していた業務日報についても、最高裁は、正確性の担保に関する具体的な事情を十分に検討することなく、業務日報による報告のみを重視して、「労働時間を算定し難いとき」に当たるとはいえないとした原審の判断を、「解釈適用を誤った違法があるというべき」とし、「労働時間を算定し難いとき」に当たるといえるか否か等に関し更に審理を尽くさせるため、高裁に差し戻すとしました。
このように、最高裁は元従業員の勤務状況を具体的に把握することは容易であったとはいえず、さらにその根拠となりうる業務日報についても、「正確性の担保に関する具体的な事情を十分に検討」することを求めて差し戻しとしました。このように、少なくとも今回の判決の段階では、これまでの判例から何かが大きく変わったとは言えないというのが現状と思われます。
参考リンク
外国人の技能実習に係る監理団体の指導員が事業場外で従事した業務につき、労働基準法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たらないとした原審の判断に違法があるとされた事例(裁判所HP)