労働契約承継法は、会社が、「会社分割」を行うに当たり、①労働者の理解や協力を得るように努めた上で、②労働者・労働組合に対して労働契約の承継等に関する事項の通知を行い、③労働者に対して、一定の期間を設けて異議の申出の機会を設けること等の規定を定め、労働者の保護を図ることを目的とするものです。
特に重要なのが、会社分割を行う際に、分割会社(会社分割をする会社)は労働者・労働組合に対して労働契約の承継に関する事項等を通知し、一定の期間(最低2週間)を設けて異議の申出を受け付けることが必要とされている点ですので、以下ではその流れについてみていくことにしましょう。なお、事業譲渡等を行う際は、事業譲渡または合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針(事業譲渡等指針)で定められており、そこで労働者保護のための手続等が定められています。
会社分割における労働者保護のための手続の流れの概要は以下の通りです。

このうち、「労働者の理解と協力を得る努力」については、会社分割に当たって、労働者と労働契約の承継に関する協議を開始するまでに、労働者の過半数で組織する労働組合と協議を行うなどの方法により、次の事項等について、労働者の理解と協力を得る努力を行う必要があります。
- 会社分割をする背景・理由
- 分割会社及び承継会社等の債務の履行の見込みに関する事項
- 承継予定労働者の範囲
- 労働協約の承継に関する事項
また、労働協約のうち債務的部分(ユニオン・ショップ協定や労働組合への便宜供与等)については、労使双方の合意があれば、分割契約等に記載することにより、承継会社等に承継させることができます。なお、①労働協約の規範的部分(労働者の待遇を定める部分)と、②労働協約の債務的部分のうち承継の合意がなされなかった部分については、その労働組合の組合員に係る労働契約が承継される場合には、承継会社と労働組合との間で同じ内容の労働協約が締結されたものとみなされます
次のステップでは、分割会社は、労働契約の承継の有無や業務の内容等について、次に説明する「通知」を行う日までに十分な時間的余裕をみて労働者と協議することが必要です(いわゆる「5条協議」)。その際、労働契約の承継の有無や会社分割時に従事することを予定する業務の内容や就業形態等について、通知を行うまでに十分な時間的余裕をもって本人の希望を聴取しつつ協議を行うことが必要であることに留意してください。協議の対象者は、①承継される事業に従事する労働者(主従事労働者)、②その事業に従事していない労働者のうち分割契約等にその者の労働契約を承継する旨の定めがあるものとされています。
次に、労働者・労働組合に対して、労働契約の承継の有無や業務の内容等や異議申出を行うことができること等の会社分割に関する事項を通知することが必要です。
分割会社が通知する必要がある労働者・労働組合は、①主従事労働者、②主従事労働者以外であって承継会社等に承継される労働者、③分割会社との間で労働協約を締結している労働組合です。この通知の通知期限日は①会社分割について株主総会を要する株式会社の場合は「分割契約等を承認する株主総会の日の13日前(2週間前の前日)」、会社分割について株主総会を要しない株式会社・合同会社の場合は分割契約等が締結・作成された日から2週間を経過する日です。
次に、上記の通知に対する異議申出を受けます。この手続きでは、労働者に対して、労働契約の承継の有無について通知日から最低2週間を確保して異議の申出の機会を設けることが必要です。
異議の申出については、①主従事労働者を分割会社に残留させる場合や、②主従事労働者でない者を承継会社等に承継させる場合に、これらの労働者が異議の申出を行ったときには、労働条件が維持されたまま、労働契約が承継(①)または残留(②)することになります。
このように、労働契約承継法では、会社分割の際の労働契約のルールを定めており、会社には必要な協議や通知等の手続きを義務付けています。これらの義務に違反した場合は、労働契約の承継が認められない場合もあるため、確実に履行することが重要です。

参考リンク
リーフレット・パンフレット・関係法令等について(厚生労働省HP)