法改正等について審議する労働政策審議会では、実務的にも有用な資料が公開される場合も少なくありません。

今回は、下記参考リンクのページに掲載されている無期転換前の雇止めに関する裁判例をまとめた資料の内容についてみていくことにしましょう。

公益財団法人グリーントラストうつのみや事件(宇都宮地判令和2年6月10日ジャーナル101号1頁)
無期労働契約の締結申込権が発生するまでは、使用者には労働契約を更新しない自由が認められているから、無期労働契約の締結申込権の発生を回避するため更新を拒絶したとしてもそれ自体は格別不合理ではないが、本件労働契約は労契法19条2号に該当し、Xの雇用継続に対する期待は合理的な理由に基づくものとして一定の範囲で法的に保護されたものであるから、特段の事情もなく、かかるXの合理的期待を否定することは、客観的にみて合理性を欠き、社会通念上も相当とは認められないとされた。

言い回しが独特で意味がわかりづらいですが、「無期労働契約の締結申込権の発生を回避するため更新を拒絶したとしてもそれ自体は格別不合理ではない」という部分は注目されます。もっとも、次の裁判例の第1審では、無期転換ルール適用直前の雇止めについて「是認することができない」としており、その考え方は確立しているとはいえません。

高知県公立大学法人事件(高知地判令和2年3月17日労判1234号23頁、高松高判令和3年4月2日)
第一審判決が、労契法18条1項が適用される直前に雇止めをするという法を潜脱するかのような雇止めを是認することができない等と述べ、Xの地位確認請求を認めたのに対し、控訴審判決は、当該法を潜脱するかのような雇止めを是認することができないという趣旨の説示はせず、また、結果として、労契法18条1項所定の期間内にXがYに対して無期転換申込権を行使したとは認められないとして、Xの地位確認請求の認容部分を取り消した。

博報堂事件(福岡地判令和2年3月17日労判1226号23頁)
Yは、形骸化したというべき契約更新を繰り返してきたものであり、Xの契約更新への期待は相当高く、その期待は合理的な理由に裏付けられたものといえ、Yは、平成25年以降、最長5年ルールの適用を徹底しているが、一定の例外が設けられており、Xの契約更新に対する高い期待が大きく減殺される状況にあったとはいえず、Xが契約更新に期待を抱くような発言等が改めてされていないとしても、Xの期待やその合理性は揺るがないとして、Xの契約更新への期待は労契法19条2号で保護されるとされた。

これは、無期転換ルールが施行されてから「最長5年ルールの適用を徹底」していたとされる事例で、注目されます。裁判例では「一定の例外」を捉えて「契約更新に対する高い期待が大きく減殺される状況にあったとはいえ」ないとしました。長期間にわたって更新を続けていた場合、更新上限を設けたとしても必ずしも有効に雇止めできるとは限らないとした事例として重要です。

日本通運事件(東京地裁判決)(東京地判令和2年10月1日労判1236号16頁)
不更新条項等を含む契約書に署名押印する行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する場合に限り(山梨県民信用組合事件参照)、労働者により更新に対する合理的な期待の放棄がされたと認めるべきとして、本件では、不更新条項等の契約書に署名押印する行為がXの自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的理由が客観的に存在するとはいえないとされた

地方独立行政法人山口県立病院機構事件(山口地判令和2年2月19日労判1225号91頁)
就業規則が改正され、雇用期間上限が5年とされるとともに、契約書には就業規則の更新上限条項の範囲内で更新される場合があることが明記されているが、それ以前の段階で、Xには既に契約更新の合理的期待が生じており、上記改正をもってその期待が消滅したとはいえず、また、上記改正の具体的説明がされたのは契約書取り交わし後であり、Xが雇用期間上限を認識していたとはいえず、Xの期待が消滅したとはいえないとされた。

近年問題となることが多い「不更新条項」について争われた事例です。本裁判例は、すでに発生していた契約更新の合理的期待については、不更新条項をもって消滅したとは言えないとされました。ただし、本事案では、具体的説明が契約書を取り交わした後だったことなどに留意するべきです。一方、次の裁判例では不更新条項により雇用継続期待が消滅した事例です。

日本通運事件(横浜地裁川崎支部判決)(横浜地川崎支判令和3年3月30日労判12552 号76頁)
Xが本件不更新条項等を明示的に付した本件雇用契約の締結の意思を形成するうえで、その自由意思を阻害する状況があったことをうかがわせる事情も認められないこと等から、本件雇用契約の満了時において、Xが本件雇用契約による雇用の継続を期待することについて合理的な理由があるとは認められないとして、Xの地位確認請求等を棄却した

ドコモ・サポート事件(東京地判令和3年6月16日労働判例ジャーナル115号2頁)
Y会社との間で有期労働契約を締結し、その後、4回目の更新期間満了時にYから雇止めされたXが、Xには労働契約法19条2号の有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的理由があり、かつ、当該雇止めは客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないため、従前の有期労働契約の内容で契約が更新され、退職後に同契約が終了したと主張して、Yに対し、同契約に基づき、未払賃金等の支払を求めた事案で、XとYとの間の本件契約の締結に至るまでの経過やYの契約期間管理に関する状況等からすれば、Xは、Yに採用された当初から、本件契約の更新限度回数は最大で4回であることを認識したうえで本件契約を締結しており、その認識のとおり、本件契約が更新されていったものといえるから、Xにおいて、本件契約が、更新限度回数を越えて、更に更新されるものと期待するような状況にあったとはいえないとして、Xの請求を棄却した事例。

契約当初から更新限度回数を定めており、その定めの通り雇止めをしたという事例で、有効と認められました。

福原学園(九州女子短期大学)事件(最判平成28年12月1日集民254号21頁)
本件規程には、契約期間の更新限度が3年であり、その満了時に労働契約を期間の定めのないものとすることができるのは、これを希望する契約職員の勤務成績を考慮してYが必要であると認めた場合である旨が明確に定められ、Xもこれを十分に認識した上で本件労働契約を締結したことなどから、無期労働契約となるか否かは、Xの勤務成績を考慮して行うYの判断に委ねられており、本件労働契約が3年の更新限度期間の満了時に当然に無期労働契約となることを内容とするものであったといえないとされた。

更新限度を3年と定めたうえで、無期転換する従業員を選別する仕組みをとっている事例です。実務的にも参考になります。

日本郵便(更新上限)事件(最二小判平成30年9月14日労判1194号5頁)
郵便関連業務に従事する期間雇用社員について満65歳に達した日以後は有期労働契約を更新しない旨の就業規則の定めが、労働契約法7条にいう合理的な労働条件を定めるものであるとされた事例。正社員が定年に達したことが無期労働契約の終了事由になるのとは異なり、Xらが本件各有期労働契約の期間満了時において満65歳に達していることは、本件各雇止めの理由にすぎず、本件各有期労働契約の独立の終了事由には当たらないとした。

本田技研工業事件(東京高判平成24年9月20日労経速2162号3頁)
期間契約社員が、11年余にわたり、有期雇用契約の締結と契約期間満了にともなう退職を繰り返してきたことで抱いた継続雇用の期待は合理的であるが、会社と不更新条項を規定する有期雇用契約を締結し、退職届をも提出したのであり、その後行われた雇止めに関して何らの不満も唱えていないのであるから、前記社員は契約期間満了後の継続雇用に対する期待利益を確定的に放棄したと認められ、前掲雇止めは解雇権濫用法理の類推適用の前提を欠くとされた事例。

最後の設問も不更新条項に関するものです。これは平成24の裁判例ですが、このころに比べると、現在の不更新条項に関する判断は、厳格化していると感じます。

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参考リンク

第175回労働政策審議会労働条件分科会(資料)(厚生労働省HP)