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厚生労働省内に設置されている多様化する労働契約のルールに関する検討会において、「無期転換ルールに関する主な裁判例」という資料が提出されました。内容は「無期転換前の雇止め等に関する裁判例」と「無期転換後の労働条件に関する裁判例」からなっており、実務でも参考になる裁判例がまとめられています。

たとえば、「井関松山製造所事件」(高松高判令和元年 7 月 8 日)では、トラクター等の農業機械の製造に係るライン業務において、平成19年7月16日以降、契約期間を6か月とする有期契約労働者として就労しているXらが、無期契約労働者に支給される賞与、家族手当、住宅手当および精勤手当(以下「本件手当等」)が有期契約労働者には支給されないことは労契法 20 条に違反するとして、主位的に本件手当等に対する賃金請求を、予備的に不法行為に基づき本件手当等相当額の損害賠償請求を行ったものです。

1審では、賞与を除く本件手当等の不支給について、Xらの不法行為に基づく損害賠償請求を認めましたが、XらとY(会社)は敗訴部分についてそれぞれ控訴しました。なお、本訴訟係属中の平成 30年9月1日以降、無期転換しましたが、Yの「無期転換社員就業規則」においても本件手当等は不支給とされていました。

高裁判決においても、賞与を除く本件手当等の不支給に係る労契法20条違反と不法行為性が認定されました。さらに、Yは、Xらは無期労働契約に転換し、本件手当等の不支給を定めた無期転換就業規則の規律を受ける以上、不法行為に基づく損害賠償請求のうち、転換した月以降の請求については理由がないことになるため、無期転換した平成30年9月以降につき、本件手当等に相当する損害金の支払義務を負わない旨主張しましたが、裁判所は、本件手当等の不支給を定めた無期転換就業規則は、X らが無期転換する前に定められていることを考慮しても、当該定めについて合理的なものであることを要する(労契法 7 条参照)としたうえで、①無期転換就業規則は、本件手当等の支給に関する限り、同規則制定前の有期契約労働者の労働条件と同一であること、また、②Yが同規則の制定に当たって労働組合と交渉したことを認めるに足りる適切な証拠はなく、X らが同規則に定める労働条件を受け入れたことを認めるに足りる証拠もないこと、そして、③Yは、これらの事情にもかかわらず、上記不支給を定めた同規則の合理性について特段の立証をしないことからすると、同規則の制定のみをもって、Y が上記支払義務を負わないと解するべき根拠は認め難いと判示しました。

このように、無期転換後の就業規則で手当等の不支給が定められていた場合であっても、合理性を理由に否定される場合があることは、留意すべき事項といえるでしょう。

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参考リンク

多様化する労働契約のルールに関する検討会 第7回資料(厚生労働省HP)