世界の労働基準監督署からVOL018:成田労働基準監督署

厚生労働省が 令和元年台風 15 号により大きな被害が発生し、事業活動に影響が出ていることを受けて 「令和元年台風第 15 号による被害に伴う労働基準法や労働契約法に関するQ&A」および「令和元年台風第15号による被害に伴う派遣労働に関する労働相談Q&A」を公表しました。

今回は、前者の内容の中から、いくつか重要と思われるものをみていきましょう。

Q1-4

今回の台風による水害等により、事業場の施設・設備が直接的な被害を受け労働者を休業させる場合、労働基準法第26条の「使用者の責に帰す べき事由」による休業に当たるでしょうか。

A1-4

労働基準法第26条では、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合 には、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上) を支払わなければならないとされています。 ただし、天災事変等の不可抗力の場合は、使用者の責に帰すべき事由に 当たらず、使用者に休業手当の支払義務はありません。ここでいう不可抗 力とは、①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主 が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできな い事故であることの2つの要件を満たすものでなければならないと解されています。 今回の台風による水害等により、事業場の施設・設備が直接的な被害を受け、その結果、労働者を休業させる場合は、休業の原因が事業主の関与 の範囲外のものであり、事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くし てもなお避けることのできない事故に該当すると考えられますので、原則 として使用者の責に帰すべき事由による休業には該当しないと考えられ ます。なお、Q1-2・A1-2 及び Q1-3・A1-3 もご覧ください。

このように「事業場の施設・設備が直接的な被害を受けた場合」については、休業手当の支払は不要と解されています。一方、次のQ1-5質問のように、「事業場の施設・設備は直接的な被害を受けていませ んが、取引先や鉄道・道路が被害を受け、原材料の仕入、製品の納入等が 不可能となったことにより労働者を休業させる場合」については、「取引先への依存の程度、輸送経路の 状況、他の代替手段の可能性、災害発生からの期間、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、判断する必要がある」と、慎重に判断することを求めています。

もう一つ、災害時の時間外労働にかんするものもみておきましょう。

Q6-1

今回の台風により、被害を受けた電気、ガス、水道等のライフラインの 早期復旧のため、被災地域外の他の事業者が協力要請に基づき作業を行う 場合に、労働者に時間外・休日労働を行わせる必要があるときは、労働基 準法第33条第1項の「災害その他避けることができない事由によって、 臨時の必要がある場合」に該当するでしょうか。

A6-1

労働基準法第32条においては、1日8時間、1週40時間の法定労働 時間が定められており、これを超えて労働させる場合や、労働基準法第35条により毎週少なくとも1日又は4週間を通じ4日以上与えることと されている休日に労働させる場合は、労使協定(いわゆる36協定)を締結し、労働基準監督署に届けていただくことが必要です。 災害その他避けることのできない事由により臨時に時間外・休日労働をさせる必要がある場合においても、例外なく、36協定の締結・届出を条 件とすることは実際的ではないことから、そのような場合には、36協定によるほか、労働基準法第33条第1項により、使用者は、労働基準監督 署長の許可(事態が急迫している場合は事後の届出)により、必要な限度の範囲内に限り時間外・休日労働をさせることができるとされています。 労働基準法第33条第1項は、災害、緊急、不可抗力その他客観的に避けることのできない場合の規定ですので、厳格に運用すべきものです。 なお、労働基準法第33条第1項による場合であっても、時間外労働・ 休日労働や深夜労働についての割増賃金の支払は必要です。 ご質問については、被災状況、被災地域の事業者の対応状況、当該労働 の緊急性・必要性等を勘案して個別具体的に判断することになりますが、 今回の台風による被害が相当程度のものであり、一般に早期のライフライ ンの復旧は、人命・公益の保護の観点から急務と考えられるので、労働基準法第33条第1項の要件に該当し得るものと考えられます。 ただし、労働基準法第33条第1項に基づく時間外・休日労働はあくま で必要な限度の範囲内に限り認められるものですので、過重労働による健 康障害を防止するため、実際の時間外労働時間を月45時間以内にするなどしていただくことが重要です。また、やむを得ず月に80時間を超える 時間外・休日労働を行わせたことにより疲労の蓄積の認められる労働者に 対しては、医師による面接指導等を実施し、適切な事後措置を講じる必要 があります。 (http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/101104-1.pdf) なお、災害発生から相当程度の期間が経過し、臨時の必要がない場合に 時間外・休日労働をさせるときは、36協定を締結し、届出をしていただ くこととなります

ポイントは、「一般に早期のライフライ ンの復旧は、人命・公益の保護の観点から急務と考えられるので、労働基準法第33条第1項の要件に該当し得るものと考えられます」というところでしょう。

近年自然災害による被害は大きくなる一方です。今回のQ&Aは将来の災害に備える意味でも参考にしてはいかがでしょうか。

お問い合わせはお気軽に。043-245-2288

参考リンク

賃金などの労働条件について、使用者が守らなければならないことをQ&Aにまとめました(厚労省HP)