現在、年収の壁対策として、事業主が保険料負担割合を変更できる特例が検討されています。今回は審議会の資料をもとに、その概要をみていくことにしましょう。
現行制度では、被用者保険の保険料は原則として労使折半とされていますが、健康保険組合の保険料の負担割合の特例では、事業主と被保険者とが合意の上、健康保険料の負担割合を被保険者の利益になるように変更することが認められています。一方で、厚生年金保険法には健康保険法のような保険料の負担割合の特例に関する規定はありません。
社会保険のパート労働者への適用拡大にともない、社会保険の適用に伴う保険料負担の発生・手取り収入の減少を回避するために就業調整を行う層が一定程度みられます。そこで、健康保険組合の特例を参考に、厚生年金・健康保険において、任意で従業員と事業主との合意に基づき、事業主が被保険者の保険料負担を軽減し、事業主負担の割合を増加させることを認める特例を設けることが現在検討されています。
検討内容としては、労使折半の原則との関係で例外的な位置づけであること等を踏まえて、時限措置とすること、現行の健康保険法では、当該特例は健康保険組合のみに認められるものであるところ、協会けんぽについても同様の特例を導入することなどが検討されています。
本制度を利用した場合でも、給付については、本特例を利用しても保険料負担の総額は変わらないため、本特例の適用を受ける者の給付は現行通りとなります。
一方、保険料負担については、本特例を利用した場合、労使の判断で、被保険者本人の保険料負担を軽減し、被用者保険の適用に伴う手取り収入の減少を軽減できることになります。ただし、事業主が保険料全額を負担し、被保険者負担をなくすことは認められないとされています。なぜなら、健康保険は被保険者間の相互扶助に基づく制度であるため、健康保険組合の特例においても、受益者である被保険者本人の負担をなくすこと(労働者0%・事業主100%)は認められていないためです。

特例の適用の範囲については、労使折半の原則を踏まえ、必要と考えられる者に限った措置とする観点から、最低賃金の近傍で就労し、被用者保険の適用に伴う「年収の壁」を意識する可能性のある短時間労働者に限定することを念頭に、最大12.6万円の標準報酬月額を想定して検討するとされています。
また、本特例の適用を受ける被保険者の負担割合については、同一の等級に属する者同士で揃えることとしつつ、等級毎の具体的な割合は、事業所単位で労使合意に基づき任意に設定可能とすることが想定されています。また、本特例を利用する事業所において、厚生年金保険料と健康保険料のうちどちらか一方にだけ本特例を適用することや、両方ともに本特例を適用しつつ、負担割合を別々に設定することも可能とすることとされています。
このように具体的な内容についても検討が進んでいるとみられますが、健保組合の特例はあくまで全ての被保険者に同一の負担割合を課すもので、「特定の標準報酬月額の方に限って負担割合を変更することは、システム改修対応や事務負担の増加が極めて重い。仮に今回のような特例を行うこととなった場合、最低限「恒久的でない時限的な対応」とするのは不可欠」などの意見が挙がっており、今後成立するのかもふくめて注視しておく必要があります。
