定年後の給与にかかる日本版同一労働同一賃金に関する最高裁の判断として注目を集めていた判決が7月20日にありました。

今回は、判決文に基づきその事件の概要についてみていきます。

まず、この会社の正職員の賃金がどのようなものであったかを、箇条書きでまとめると次の通りです。

  • 月給制で基本給、役付手当等で構成されている
  • 基本給は一律給と功績給で構成されている
  • 役付手当は主任以上の役職に就いている場合に支給
  • 賞与は夏季・年末の年2回でその額は、基本給に所定の掛け率を乗じて得た額に10段階の勤務評定分を加えた額
  • 長期雇用が前提で、役職に就き、昇進あり
  • 定年は60歳

定年後の雇用については、継続雇用制度を導入しており、希望者は、1年間の有期労働契約を締結し、これを更新して、原則として65歳まで嘱託として再雇用していました。

以上のような制度のもとで、労働者の一人であるX1は、主任だった平成25年7月12日に定年退職した後再雇用され、同30年7月9日まで嘱託職員として教習指導員の業務に従事しました。またX2は、主任だった平成26年10月6日に定年退職した後再雇用され、令和元年9月30日までの間、嘱託職員として教習指導員の業務に従事しました。

この間のX1の基本給は、定年退職時には月額181,640円であったところ、再雇用後の1年間は月額81,738円、その後は月額74,677円でした。X2の基本給も再雇用後は半額以下に大きく減額されていました。

2人の賞与については、X1は、定年退職前の3年間において、1回当たり平均約233,000円の賞与の支給を受けていたところ、再雇用後は、平成27年の年末以降、1回当たり81,427円から105,877円まででした。X2についても、再雇用後の一時金は半額以下に減額されていました。なお、X1、X2は、再雇用後、老齢厚生年金および高年齢雇用継続基本給付金を受給していました。

X1は、再雇用期間中の平成27年2月24日、自身の嘱託職員としての賃金を含む労働条件の見直しを求める書面を送付し、5カ月程度、会社との間で書面によるやり取りを行いました。また、X1は、所属する労働組合の分会長として、会社に対し、嘱託職員と正職員との賃金の相違について回答を求める書面を送付したこともありました。

このような経緯を経てX1とX2が、会社と無期労働契約を締結している労働者との間における基本給、賞与等の相違は旧労働契約法20条に違反するものであったと主張して、会社に対し、不法行為等に基づき、上記相違に係る差額について損害賠償等を求めたものです。

上記事実関係の下において、高裁は、X1らが定年退職の前後を通じて、主任の役職を退任したことを除き、業務の内容・責任の程度ならびに職務の内容・配置の変更の範囲に相違がなかったにもかかわらず、基本給および嘱託職員一時金の額は、定年退職時の額を大きく下回り、さらに、正職員の基本給に年功的性格があることから金額が抑制される傾向にある勤続短期正職員の基本給および賞与の額をも下回っていることは、労使自治が反映された結果でなく、労働者の生活保障の観点からも看過し難いことなどに鑑みると、X1らの基本給が定年退職時の基本給の額の60%を下回る部分、および被上告人らの嘱託職員一時金がX1らの定年退職時の基本給の60%に所定の掛け率を乗じて得た額を下回る部分は、労契法20条にいう不合理と認められるものに当たるとして、損害賠償請求を一部認容すべきものとしました。

これに対して、最高裁は、次のように判示して、高裁判決を破棄・差し戻しとしました。

最高裁は、労契法20条の目的を確認したうえで、「両者の間の労働条件の相違が基本給や賞与の支給に係るものであったとしても、それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得る」として、基本給や賞与であっても、労契法20条の対象となることを指摘しました。

そして、「その判断に当たっては、他の労働条件の相違と同様に、当該使用者における基本給及び賞与の性質やこれらを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより、」その相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきものとしました。

この判断基準を今回の事案への当てはめでは、正職員の基本給について、「職務の内容に応じて額が定められる職務給としての性質をも有するものとみる余地がある」ことや「職能給としての性質を有するものとみる余地もある」ことなどを指摘したうえで、「嘱託職員の基本給は、正職員の基本給とは異なる性質や支給の目的を有するものとみるべき」としました。また、労使交渉に関する事情についても、合意の有無や内容といった労使交渉の結果のみならず、「その具体的な経緯をも勘案すべきものと解される」としました。最高裁は、原審が「各基本給の性質やこれを支給することとされた目的を十分に踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま、その一部が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとした原審の判断には、同条の解釈適用を誤った違法がある」とし、さらに、正職員の賞与と嘱託職員一時金の金額が異なることについても、原審は、「賞与及び嘱託職員一時金の性質やこれらを支給することとされた目的を踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま」行われた原審の判断には、同条の解釈適用を誤った違法があるとしました。

以上から、X1らの基本給および賞与に係る損害賠償請求に関する上告人敗訴部分は破棄を免れず、本件を原審に差し戻しとしました。

今後は、正職員および嘱託職員の基本給と賞与(嘱託一時金)の性質や目的について、高裁で再度審議されることになりますので、引き続き今後の動向に注目です。

お問い合わせはお気軽に。043-245-2288

参考リンク

最高裁判所判例集(裁判所HP)