今回は、今後の社会保険関係法令の改正につながる、「働き方の多様化を踏まえた被用者保険の適用の在り方に関する懇談会 議論の取りまとめ」についてみていきましょう。
本取りまとめを行った「懇談会」は、働き方の多様化が進展する中で、厚生年金保険・健康保険においては、近年、適用範囲の見直しを行ってきたところ、その状況も踏まえつつ、被用者保険における課題や対応について、関連分野の有識者や労働者・使用者団体等を招集されたものです。本懇談会では、①短時間労働者に対する被用者保険の適用範囲の在り方、②個人事業所に係る被用者保険の適用範囲の在り方、③複数の事業所で勤務する者、フリーランス、ギグワーカーなど、多様な働き方を踏まえた被用者保険の在り方を主な議題として、被用者にふさわしい保障の実現、働き方や雇用の選択を歪めない制度の構築等の観点から検討を行い、2024年7月3日に議論が取りまとめられました。
まず①の論点については、社会保険の短時間労働者への適用拡大の動向を占ううえで重要です。現在、被保険者101人以上の企業では社会保険の加入基準が以下のとおりとなっており、今年の10月にはさらに被保険者51人以上の企業で加入基準の引き下げが行われますが、さらにこの企業規模要件は、他の要件に優先して、撤廃の方向で検討を進めるべきであることが明記されました。そのうえで、事業所における事務負担や経営への影響、保険者の財政や運営への影響等に留意し、必要な配慮措置や支援策うことが必要とされました。
そのほか上記の基準のうち、労働時間要件の引下げについては、国民健康保険・国民年金というセーフティネットが存在する国民皆保険・皆年金の下では、事業主と被用者との関係性を基盤として働く人々が相互に支え合う仕組みである被用者保険の「被用者」の範囲をどのように線引きするべきか議論を深めることが肝要として、今後の検討事項とされました。また、賃金要件の引き下げについても同様の側面があるとする一方で、年収換算で約106万円相当という額が就業調整の基準として意識されている一方、賃金要件の特有な点として、最低賃金の引上げに伴い労働時間要件を満たせば賃金要件を満たすことが増えてきている点も踏まえて検討を行う必要があるとされました。一方、学生除外要件については現状維持が望ましいとの意見が多く、見直しの必要性は低いと考えられています。
このように、社会保険の短時間労働者への適用拡大については、企業規模要件の撤廃のほかは現状通りになるものと思われます。
次に②の個人事業所に係る適用範囲については、常時5人以上を使用する個人事業所における非適用業種については、5人未満の個人事業所への適用の是非の検討に優先して、解消の方向で検討を進めるべきとされました。
③の複数の事業所で勤務する者については、労働時間等を合算する是非は、慎重に検討する必要があるとされたことから、次回の法改正で実施される可能性は低いとみられます。報告書では、その前提として現行の事務手続を合理化し、事務負担軽減が図られるよう、具体的な検討を進めるべきとしました。
④のフリーランス等については、その働き方や当事者のニーズは様々であるが、現行の労働基準法上の労働者については、被用者保険の適用要件(雇用
期間や労働時間等)を満たせば適用となることから、適用が確実なものとなるよう、労働行政との連携を強化することを確認しました。その上で、現在労働基準関係法制研究会において、労働基準法上の労働者について検討されていることから、まずは労基法上の「労働者」の改正の動向をみてから見直しが検討されるという順序になりそうです。
また、従来の自営業者に近い、自律した働き方を行っているケースについても、中長期的な課題として引き続き検討としていく必要があるとして、当面大きな改正はなさそうです。
このように、次の改正の俎上に上がるものとしては、①短時間労働者への社会保険の適用拡大に関して、被保険者数の要件を撤廃すること、②非適用業種の廃止の2つになりそうです。これにより、小規模事業所にも社会保険の適用範囲が拡大することが考えられます。