今回は「個別の意向聴取や配慮について」からみていきましょう。法改正によって、妊娠・出産等の申出時や子が3歳になる前に、「育児休業制度等」・「柔軟な働き方を実現するための措置」に係る個別の周知・意向確認とは別に仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取と配慮が事業主に義務づけられました。

ここで、「配慮」とは、「労働者の就業条件を定めるに当たり、聴取した意向も踏まえつつ、自社の状況に応じて『配慮しなければならない』こととされたものです」。この配慮として、「何らかの措置を行うか否かは事業主が自社の状況に応じて決定」することになるので、必ずしも従業員の意向を反映しなければならないものではありません。具体的な配慮の取組例としては、「勤務時間帯・勤務地にかかる調整、業務量の調整、両立支援制度等の利用期間等の見直し、労働条件の見直しなどが考えられます」。

ここで「業務量の調整」とは、「可能な範囲で、業務の一部を他の労働者に割り当てることや業務フローを見直すことが考えられます」(A2-44)。

個別の周知・意向確認は、事業主またはその委任を受けてその権限を行使する者と労働者との間で行っていればよいので、人事部でなくても、事業主から委任を受けていれば、所属長や直属の上司であっても差し支えないとされています(A2-38)。

では、次に「介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等」の内容についてみていくことにしましょう。

法改正により、令和7年4月1日から、労働者から家族の介護に直面した旨の申出があった場合に、当該労働者に対して、仕事と介護の両立支援制度等について周知するとともに、制度の取得意向を確認するための措置を実施する必要があります。令和7年4月1日より前に介護に直面していることが分かっている労働者に対しては、個別の周知・意向確認の措置義務はありませんが、行うことが望ましいのは当然です。

介護に直面した旨の申出方法は、書面等に限定していないため、事業主において特段の定めがない場合は口頭でも可能ですが、事業主が申出方法を指定する場合は、申出方法をあらかじめ明らかにする必要があります。なお、「指定された方法によらない申出があった場合でも、必要な内容が伝わるものである限り、措置を実施する必要があ」るとされていますので、申請方法と違うからといって措置義務を免れることはできません(Q4-3)。

次に「介護に直面する前の早い段階での両立支援等に関する情報提供」についてみてみましょう。今回の改正により、次のいずれかの期間に、仕事と介護の両立支援制度等に関する情報を周知することが義務付けられました。

  • 労働者が40歳に達する日の属する年度の初日から末日までの期間
  • 労働者が40歳に達する日の翌日から起算して1年間

情報提供する内容は、以下の通りです(Q4-8)。

  • 介護休業に関する制度及び介護両立支援制度等
  • 介護休業申出及び介護両立支援制度等の利用に係る申出先
  • 介護休業給付に関すること

なお、情報提供については、「柔軟な働き方を実現するための措置」の個別周知・意向確認と同様に対象となる労働者を一堂に集めてまとめて実施することも可能です(Q4-9)。

「介護休業や仕事と介護の両立支援制度を取得・利用しやすい雇用環境の整備」については、事業主は以下のいずれかの措置を講じなければなりません(Q4-11)。

  1. 介護休業や仕事と介護の両立支援制度等に関する研修の実施
  2. 介護休業や仕事と介護の両立支援制度等に関する相談体制の整備等(相談窓口設置)
  3. 自社の労働者の介護休業の取得事例や仕事と介護の両立支援制度等の利用事例の収集・提供
  4. 自社の労働者へ介護休業制度と介護休業取得促進に関する方針の周知及び仕事と介護の両立支援制度等や仕事と介護の両立支援制度等の利用促進に関する方針の周知

なお、介護に直面している社員がおらず、また、採用する予定がない場合でも、「育児・介護休業法第22条第2項及び第4項では、義務の対象となる事業主を限定していないことから、全ての事業主が雇用環境の整備を」行う必要があります(Q4-13)。

最後は、介護休業制度について、社内に浸透しやすいよう事業主独自の名称に変更することの可否についてです。

たとえば就業規則の「介護休業」を「『介護の体制を構築するため一定期間休業する場合に対応するもの』であることが分かるように、『介護休業・介護体制準備休業』、『介護準備休暇』というように、事業主独自に名称を決めることは、法律上の取得要件等を満たしていれば差し支え」ないとされています(Q4-14)。

なお、介護休業制度、介護両立支援制度等の趣旨については、「介護休業」は、要介護状態にある対象家族の介護の体制を構築するため一定期間休業する場合に対応するものと位置付けられており、「介護休暇」は、介護保険の手続や要介護状態にある対象家族の通院の付添いなど、日常的な介護のニーズにスポット的に対応するために利用するものと位置付けられています。

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参考リンク

育児・介護休業法が改正されました~令和7年4月1日から段階的に施行~(厚生労働省HP)