世界の労働基準監督署からVOL006:中央労働基準監督署

3月10日に、残業代をめぐる注目の最高裁判例が出ました。今回はその事件の概要を紹介しましょう。

本事件は、トラック運転手として勤務していた労働者が、会社に対し、時間外労働、休日労働及び深夜労働に対する賃金および付加金等の支払を求めたものです。この会社では、就業規則の定めにかかわらず、日々の業務内容等に応じて月ごとの賃金総額を決定した上で、その賃金総額から基本給と基本歩合給を差し引いた額を時間外手当とするとの賃金体系が採用されていました。

その後、会社では平成27年に労働基準監督官の指導をきっかけに、新しい賃金体系としました。

  • 基本給は、本人の経験、年齢、技能等を考慮して各人別に決定した額を支給
  • 基本歩合給は、運転手に対し1日500円とし、実出勤した日数分を支給
  • 勤続手当は、出勤1日につき、勤続年数に応じて200~1000円を支給
  • 残業手当、深夜割増手当および休日割増手当(本件時間外手当)ならびに調整手当から成る割増賃金(本件割増賃金)を支給
    • 本件時間外手当の額は、基本給、基本歩合給、勤続手当等を通常の労働時間の賃金として、労働基準法37条等に定められた方法により算定した額
    • 調整手当の額は、「本件割増賃金」の総額から「本件時間外手当」の額を差し引いた額。本件割増賃金の総額の算定方法は新就業規則に明記されていないものの、上記総額は、旧給与体系と同様の方法により業務内容等に応じて決定される月ごとの賃金総額から基本給等の合計額を差し引いたもの

以上から、この会社では、基本給等から計算された「本件時間外手当」を支払ってはいますが、支給総額は変わらない仕組みになっていることがわかります。

会社は、新給与体系の導入に当たり、訴えを起こした労働者も含めた従業員に対し、基本給の増額や調整手当の導入等につき一応の説明をしたところ、特に異論は出ませんでした。

このような経緯の下で争われた本事件ですが、原審では、労働者の各請求を棄却しました。本件割増賃金のうち調整手当については、時間外労働等の時間数に応じて支給されていたものではないこと等から、その支払により労働基準法37条の割増賃金が支払われたとは認めませんでしたが、他方、本件時間外手当については、平成27年就業規則の定めに基づき基本給とは別途支給され、金額の計算自体は可能である以上、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の割増賃金に当たる部分とを判別することができる上、新給与体系の導入に当たり、本件時間外手当や本件割増賃金についての一応の説明があったと考えられること等も考慮すると、時間外労働等の対価として支払われるものと認められるとして、その支払により同条の割増賃金が支払われたということができるとしました。

このような経緯を経て争われた最高裁判決ではどのような判断がされたのか、次回その内容についてみていくことにしましょう。

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参考リンク

裁判例結果詳細(裁判所HP)