厚生労働省が、令和5年に賃金不払が疑われる事業場に対して労働基準監督署が実施した監督指導(立入調査)の結果を公表しました。
令和5年に全国の労働基準監督署で取り扱った賃金不払事案の件数は21,349件(前年比818件増)、対象労働者数は181,903人(同2,260人増)、金額は101億9,353万円(同19億2,963万円減)でした。1件あたりを平均すると対象労働者数は8.5人、金額は477,471円となります。また1人あたりの金額は56,038円となります。こうして均すと、不払いとされた金額もそこまで大きいとはいえないということができます。
ただし、支払金額は業種によるばらつきも見られます。たとえば運輸交通業は金額が5.2億円、対象労働者数が6,828円ですので、1人あたりの金額は76,157円ですので、平均より2万円多くなります。
この数字を昨年と比べると、令和4年は件数が20,531件、対象労働者数が179,643人、金額が121億2,316万円でした。これを1件当たり平均すると対象労働者数は8.7人、金額は590,481円でした。
したがって、昨年と比べて1件あたりの不払い金額は11万円以上減ったことになります。
なお、今年の労働基準監督署が取り扱った上記の賃金不払事案のうち、令和5年中に、労働基準監督署の指導により使用者が賃金を支払い、解決された件数は20,845件(97.6%)、対象労働者数は174,809人(96.1%)、金額は92億7,506万 円(91.0%)でした。
不払い事案の事例としては、過重労働による労災請求がなされたことを受け、労働基準監督署が立入調査を実施したところ、労働時間は、勤怠システムにより管理を行っているが、当該システムに搭載された端数処理機能を用いて、日ごとの始業・終業時刻のうち15分未満は切り捨て、休憩時間のうち15分未満は15分に切り上げる処理が行われており、着用が義務付けられている制服への着替えの時間を、労働時間としていなかったことなどが認められました。
そこで、労働基準監督署は、①労働時間を適正に把握するための具体的方策を検討・実施すること、②過去に遡って、労働時間の状況について労働者に事実関係の聞き取りを行うなど、実態調査を行い、実際の支払額との差額の割増賃金の支払いが必要になる場合は、追加で支払うことを指導しました。そして調査の結果、差額の割増賃金不払いが認められたことから是正勧告が行われました。
その後、会社は、労働者へのヒアリングを行って、正しい労働時間数を把握し、再計算の上、差額の割増賃金を支払いました。また、勤怠システムに搭載された端数処理機能の設定を見直し、始業・終業時刻の切り捨て、休憩時間の切り上げ処理をやめ、1分単位で労働時間を管理することとしました。さらに、制服への着替えの時間を、労働時間とすることとした。
この事例は、労働時間の切り捨てや着替え時間の労働時間制など典型的な論点が含まれており参考になります。自社でも、誤った取り扱いになっていないか、一度確認してみてはいかがでしょうか。
参考リンク
賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和5年)を公表します(厚生労働省HP)