東京都がカスタマー・ハラスメントの防止に関し、「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」を制定しました(令和7年4月1日施行)。そこで、今回は、その概要を、都が作成したQ&Aなどを参照しながら見ていくことにしましょう。

今回の条例は、都が、令和5年10月、『公労使による「新しい東京」実現会議』の下に行政法や労働法の専門家が参画する「カスタマーハラスメント防止対策に関する検討部会」を設け、その中で、カスタマーハラスメントが長時間の拘束やメンタル疾患を招くなど深刻な状況であること、条例など法的な枠組みが必要であること、罰則のない理念型の条例とし「カスタマーハラスメント」という言葉を広めることが重要であることなどが共通認識として示されたことをを踏まえ、パブリックコメントを経て、令和6年10月に条例の制定に至ったものです。さらに、7月に立ち上げた「カスタマーハラスメント防止ガイドライン等検討会議」では、条例の実効性を高めるため、条例の考え方や運用のあり方を示すガイドライン(指針)や、各業界団体の参考となるマニュアルの策定などに向けて、専門家等による議論が進められています。

したがって、今回の条例は、カスタマーハラスメントの防止の啓発に力点をおいたものということができます。そのため、今回の条例には罰則などは定められていません。この点について、Q&Aでは、「条例第4条において、「何人も、あらゆる場において、カスタマー・ハラスメントを行ってはならない。」としてカスタマーハラスメントを明確に禁止し、幅広い行為を抑止したい」とされています。なお、「行為によっては、傷害罪、強要罪、名誉棄損罪などの犯罪に該当する可能性があり、刑法等に基づき処罰される」のは当然です。

では、今回「啓発」しようとしている「カスタマーハラスメント」を、条例ではどのように定義されているのでしょうか。条例2条5号では、カスタマーハラスメントを「顧客等から就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するものをいう」と定めています。そのうえで、4条で「何人も、あらゆる場において、カスタマー・ハラスメントを行ってはならない」と、包括的な禁止条項をおきました。なお、5条では、「顧客等の権利を不当に侵害しないように留意しなければならない」と、利益調整が図られています。

なお、条例では、「事業者」を「都の区域内(以下「都内」という。)で事業(非営利目的の活動を含む。)を行う法人その他の団体(国の機関を含む。)又は事業を行う場合における個人」、「就業者」を「都内で業務に従事する者(事業者の事業に関連し、都の区域外でその業務に従事する者を含む。)をいう」と定めており、原則として都内の事業者および就業者を対象としていることは、都の条例であることの性質上当然のことですが、確認しておくべきでしょう。

では、カスタマーハラスメントについて、事業者の責務はどのように定められているのでしょうか。条例9条では、次の3点の「努力義務」が定められています。

  1. 基本理念にのっとり、カスタマー・ハラスメントの防止に主体的かつ積極的に取り組むとともに、都が実施するカスタマー・ハラスメント防止施策に協力するよう努めること
  2. その事業に関して就業者がカスタマー・ハラスメントを受けた場合には、速やかに就業者の安全を確保するとともに、当該行為を行った顧客等に対し、その中止の申入れその他の必要かつ適切な措置を講ずるよう努めること
  3. その事業に関して就業者が顧客等としてカスタマー・ハラスメントを行わないように、必要な措置を講ずるよう努めること

そして、これらの責務に関しては施行日までにガイドラインが定められることとされています。そして、これらのガイドラインを踏まえて、事業者は、「カスタマー・ハラスメントを防止するための措置として、指針に基づき、必要な体制の整備、カスタマー・ハラスメントを受けた就業者への配慮、カスタマー・ハラスメント防止のための手引の作成その他の措置を講ずるよう努めなければならない」こととされています。なお、ガイドラインの内容については、既に都の検討会議で検討が始められており、以下のような内容が盛り込まれる見込みです。

このように、今回の条例では、事業主に課せられるのは努力義務ではありますが、以前の記事でみたとおり、カスタマーハラスメントにより就業者のモチベーションの低下や離職に繋がることをかんがえれば、問題になりそうな事業者については、都の示したガイドラインを参考に、可能な範囲で対策に取り組むことも有意義なものと思われます。

お問い合わせはお気軽に。043-245-2288

参考リンク

東京都カスタマー・ハラスメント防止条例(東京都HP)