image116「『多様な正社員』の普及・拡大のための有識者懇談会」が、多様な正社員の導入や活用を検討する労使等の関係者が参照するための「雇用管理上の留意事項」や就業規則の規定例等を整理するとともに、関連する政策提言をまとめた報告書がとりまとめられたことは、先日ここでも記事にしましたが、このたび神奈川労働局のHPで、その内容をまとめたリーフレットが公開されました。

リーフレットでは、代表的な「多様な正社員」として次の3つを挙げた上で、労働者に対する限定の内容の明示、転換制度、均衡処遇、いわゆる正社員の働き方の見直しなどへの対応について解説し、さらに就業規則の主な規定例についても取り上げています。

  • 勤務地限定正社員
  • 職務限定正社員
  • 勤務時間限定正社員

特に、「多様な正社員」の導入に当たって、一部で懸念されていた整理解雇については、次のように解説されています。

  • 勤務地や職務が限定されていても、事業所閉鎖や職務廃止の際に直ちに解雇が有効となるわけではなく、整理解雇法理(4要件・4要素)を否定する裁判例はありません。
  • 解雇の有効性は、人事権の行使や労働者の期待に応じて判断される傾向があります。
  • 勤務地限定や高度な専門性を伴わない職務限定などにおいては、解雇回避のための措置として配置転換が求められる傾向にあります。他方、高度な専門性を伴う職務や他の職務と明確に区別される職務に限定されている場合には、配置転換に代わり、退職金の上乗せや再就就職援によって解雇回避努⼒を尽くしたとされる場合もみられます。

なお、整理解雇については、解雇権の行使として社会通念上合理的なものであるかどうかは、次の4つの事項に着目して総合考慮して判断されることが多く、これを整理解雇法理(4要件・4要素)といいます。

  1. 人員削減の必要性
  2. 解雇回避努力義務を尽くしたか
  3. 被解雇者選定の妥当性
  4. 手続の妥当性

また、職務限定社員の能力不足解雇については、多様な正社員についても、能力不足を理由に直ちに解雇することが認められるわけではなく、高度な専門性を伴わない職務限定では、改善の機会を付与するための警告に加え、教育訓練、配置転換、降格などが求められる傾向がみられるなどの留意点が挙げられています。

このような考え方は、これまでの基本的な考え方と異なるわけではありませんが、今回のように公的な組織により策定ですので、今後の裁判例にも影響を与えると、私は考えています。

その他の内容については、「望まれます」とされているところとそうでないところの強弱に注意するべきです。たとえば、「いわゆる正社員の働き方の見直し」では、「多様な正社員の働き方を選びやすくするため、所定外労働、転勤や配置転換の必要性や期間などの見直しなど、いわゆる正社員の働き方を見直すことが望まれます」、とされている一方、「労働者に対する限定の内容の明示」では、「労働契約法第4条の書面による労働契約の内容の確認の対象としては、職務や勤務地の限定も含まれます」とされています。このように読んでいくことで、実施すべきことの優先順位も立てやすいのではないでしょうか。

「多様な正社員」がどこまで広がるか、特に中小企業に波及するまでにどのくらいの時間がかかるのかは不透明ですが、正社員の過重労働の緩和、ワークライフ・バランス、優秀な人材の定着など、今日的な課題への有力な処方箋となる可能性があります。今後、厚生労働省では、普及のために事例の収集に取り組むとしており、こういった情報も可能な限り取り上げていきたいと思っています。

ちなみに、ほぼ同内容の行政通達も発出されています。関連リンクに掲載しますので、興味のある方はご覧下さい。

■関連リンク

勤務地などを限定した「多様な正社員」の円滑な導入・運用のために(神奈川労働局HP)

多様な正社員に係る「雇用管理上の留意事項」等について(厚生労働省HP、PDF)

 

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