image068任意団体である「ブラック企業対策プロジェクト」が、ハローワークインターネットの求人検索を使用した調査で、約77%の固定残業代求人で違法の疑いが強いと確認したと発表しました。

同団体では、求人票の正当性の判断について、過去の裁判判例をもとに、 ①金額の明示がある、②時間の明示がある、③時間に対応する金額がきちんと割増分払われることになっているのいずれかを満たしていない場合は、違法の疑いが強いと判断したとしています。

固定残業代は、法所定の時間外労働手当に代えて一定の手当を支払うことをいい、「法所定の計算による割増賃金を下回らない限りは適法である」(菅野361)とされています。

また、厚生労働省の解釈では、「年俸に時間外労働等の割増賃金が含まれていることが労働契約の内容であることが明らかであって、割増賃金相当部分と通常の労働時間に対応する賃金部分とに区別することができ、かつ割増賃金相当部分が法定の割増賃金額以上支払われている場合は」法違反とはならないとする照会に対して、「基本的に貴局見解のとおり」とし、「年間の割増賃金相当額に対応する時間数を超えて時間外労働等を行わせ、かつ、当該時間数に対応する割増賃金が支払われていない場合は、」法違反となることが示されています(H12.3.8基収78号)。

このように、固定残業代制度は一定の条件の下で学説、行政そして判例でも認められている制度です。

しかし、「残業代を支払うべき労基法上の義務を免れようとする脱法意図が見受けられる」(判例精選44)など批判もあり、今後裁判等で厳しく判断される可能性も否定できないと、私は考えています。

たとえば、ある裁判例では、賃金規程の「75時間分の時間外労働手当相当額=(能力基本給+年功給)×34.5% 30時間分の深夜労働手当相当額=(能力基本給+年功給)×3.0%」とする定めについて、「75時間分という時間外労働手当相当額が2割5分増の通常時間外の割増賃金のみを対象とするのか、3割5分増の休日時間外の割増賃金をも含むのかは判然とせず、契約書や給与支給明細書にも内訳は全く記載されていない」として、「割増賃金部分の判別が必要とされる趣旨を満たしているとはいい難」いとしました。

計算すれば分かるだろうと言いたいところ(個人の感想です)なのですが、この裁判例では、契約書や給与明細書へ内訳を明記することまで求めたというわけです。したがって、これらを怠っているケース、たとえば、単に口頭で「●●時間分の残業代込」と知らせているケースでは、固定残業手当として認められない恐れがあります。

現状、固定残業代制度は、①基本給などの総賃金に組み込むケースと、②基本給などと区別して定額手当とするケースがあります。しかし、これまでみたように、固定残業代制度が有効であるためには一定の要件があること、また厳格に判断する裁判例があることからすると、①の場合は、少なくとも内訳を給与明細書に明記するなどの対応が必要であり、実務的には今後②のように別建てとするべきだと考えます。

今回の調査は、求人票をもとに適法な固定残業手当といえるかどうかを検証したもので、実際の労働条件通知書や給与明細書では内訳まで明記されているケースもありえますので、そのまま固定残業手当の約8割が違法という結論にはならないと思います。しかし、固定残業手当が、これまでみてきたような条件付で認められているということは、認識しておく必要があるでしょう。

 

■関連リンク

【京都】ブラック企業対策プロジェクト 固定残業代調査の結果報告

 

〔凡例〕

菅野=菅野和夫「労働法第10版」弘文堂

精選=岩村正彦・中山慈夫・宮里邦雄編「実務に効く労働判例精選」有斐閣

 

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