今回の記事、ざっくり言うと・・・

  • 前回に引き続き、今年3月に公表された「企業における仕事と介護の両立支援実践マニュアル【事業主向け】」から、実態把握の方法と制度設計・見直しについてポイントを紹介
  • 介護に直面する前に介護に関する基本的な知識や情報、実際に介護に直面した際の仕事と介護の両立のイメージを提供し、従業員自身が介護についての事前準備を行えるよう支援する必要がある
  • 介護に直面してからは、どのような介護サービスを利用するかのマネジメントをするものである」というイメージを持ってもらい、自ら行動してもらう必要がある

今週は、「企業における仕事と介護の両立支援実践マニュアル」をもとに、介護離職防止のための施策について取り上げています。マニュアルでは、次の5つのステップがモデルとして紹介されていました。

  1. 従業員の仕事と介護の両立に関する実態把握
  2. 制度設計・見直し
  3. 介護に直面する前の従業員への支援
  4. 介護に直面した従業員への支援
  5. 働き方改革

今回は3~5についてみていきましょう。

3.介護に直面する前の従業員への支援

介護については、今後直面する可能性が高いと考える従業員が多いものの、わからないことが多く、漠然とした不安を抱えている従業員も少なくありません。そのため、企業は、介護に関する基本的な知識や情報、実際に介護に直面した際の仕事と介護の両立のイメージを提供し、従業員自身が介護についての事前準備を行えるよう支援する必要があります。そのための具体的な取り組みは次のようなものが考えられます。

  1. 仕事と介護の両立を企業が支援するという方針の周知
  2. 「介護に直面しても仕事を続ける」という意識の醸成
  3. 企業の仕事と介護の両立支援制度の周知
  4. 介護について話しやすい職場風土の醸成
  5. 介護が必要になった場合に相談すべき「地域の窓口」の周知
  6. 親や親族とコミュニケーションをはかっておく必要性のアピール

我々社労士や人事担当者からすると意外に思われますが、アンケート調査によれば、勤務先の両立支援制度について54.8%が「制度があるかどうか知らない」、32.4%が「制度があることは知っているが、内容はわからない」と答えています。このことから、従業員に対して、自社の仕事と介護の両立支援制度を十分に周知することの重要性がわかります。

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厚労省作成「社内研修用:「仕事と介護の両立セミナー」テキストより

また、介護保険サービスの対象になっていない状態から相談することができる窓口である「地域包括支援センター」は、「名称も利用方法も知らない」人が6割以上を占めているという調査結果もあります。このように、介護に直面し際に利用できる会社の制度、地域のサービス等を周知することは重要といえます。

4.介護に直面した従業員への支援

要介護者に必要となる介護は多様で個別性が高いため、企業が個々の従業員に対して、具体的な両立方法を情報提供することは難しい状況です。そのため、企業は従業員に「働き続けてほしい」とのメッセージを伝えながら「仕事を継続しながら介護をする」「介護は自分自身がするだけではなく、どのような介護サービスを利用するかのマネジメントをするものである」というイメージを持ってもらい、自ら行動してもらう必要があります。そのための取組みとして、次のようなものが考えられます。

  1. 相談窓口での両立課題の共有
  2. 企業の仕事と介護の両立支援制度の手続き等の周知
  3. 働き方の調整
  4. 職場内の理解の醸成
  5. 上司や人事による継続的な心身の状態の確認
  6. 社内外のネットワークづくり

この点で、マニュアルでは、具体的な事例として、会社が自分自身の働き方や要介護者の状態に合った両立支援制度を利用できるよう、相談者に配付する資料を用意したことが取り上げられています。同資料には、介護休業中の健康保険料や厚生年金保険料、雇用保険料、所得税、住民税がそれぞれどのような取り扱いになるかを明記しており、この資料をもとにアドバイスを行うとしています。

5.働き方改革

「時間制約」があることを前提とした働き方ができる職場は、介護をする従業員が離職せずに働き続けられる職場でもあります。そのためには、仕事に意欲的に取り組めるような働き方を実現できる環境の整備が必要です。

ここには、長時間残業がない職場や有給休暇が取得しやすい職場の実現といった「労働時間」に関する「働き方の見直し」はもちろん、仕事上の情報共有などの「仕事の見える化」や、個人の事情を「お互いさまと理解しあえる職場風土づくり」も含まれます。

現場レベルで働き方改革を進めるためには、経営層が従業員に対して強いメッセージを打ち出し、管理職が働き方改革に率先して取り組むことが何よりも必要になります。このことにより、介護をしている従業員であっても就業を継続できるような職場に繋がるのではないでしょうか。

参考リンク

仕事と介護の両立支援(厚生労働省HP)

MORI社会保険労務士・行政書士事務所(千葉県千葉市)では、日々生じる従業員に関する問題やちょっとした労働法に関する疑問、他社事例について、気軽に電話やメールで相談できる「労務相談」業務の依頼を受託しています。もちろん仕事と介護の両立支援に関するご相談、給与計算(年末調整)、労働・社会保険、就業規則、各種許認可業務等も対応します。

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