昨年9月、個人宅と直接契約を結んで家事業務を担う当時68歳の女性の「家事使用人」が、長時間の家事労働の末に亡くなったことが過労死だと認められなかったのは不当だとして、女性の夫が国の処分取り消しを求めた裁判があり、東京地裁は家事使用人は労基法116条により同法が適用されないため、訴えを退ける判決を出したことが報道されました。東京新聞の1月25日のWEB記事によれば、控訴審が開始されたとのことですが、この事件を契機として、国会で阿部議員が質問主意書を提出しました。

今回はその回答と合わせて、現在の政府見解を確認することにしましょう。

質問主意書では、初めに、厚労大臣が「個人の家庭の指揮命令の下で家事に従事している者は通常の労働関係と異なり、国家による監督・規制が不適当であるということで今の制度になっている。そうした考え方の経緯・実態も踏まえた検討が必要」と述べたことを指摘したうえで、「なぜ、個人の家庭の指揮命令の下で家事に従事している者は通常の労働関係と異なるのか。その根拠を示されたい。」としました。

これに対する政府は、「その労働が、雇主の家庭内において、雇主の指揮命令の下で行われ、雇主及びその家族の私生活と密着している点で、指揮命令関係が家庭の外にある労働関係(以下「通常の労働関係」という。)とは異なる」と、見解を示しました。

次に、労働省がかつて発出した通達に「個人家庭における家事を事業として請け負う者に雇われて、その指揮命令の下に当該家事を行う者は家事使用人に該当しない」とされていたことを指摘し、同じ家事労働に従事しているにもかかわらず、家事代行サービス業者に雇用されて家庭に派遣されて家事労働に従事している場合とそうでない場合で、労働基準法が適用される人とされない人がいることの理由を質しました。これに対して、政府は、上記の回答と同じ考え方を示し、通達は「家事使用人に該当する者の範囲を明らかにした」ものとしました。

次に、質問主意書では、労働大臣の諮問機関「労働基準法研究会」が、「家事使用人の労働基準法適用除外の規定を廃止するよう提言した」ことを指摘したうえで、その後、どのような検討が行われたのかを質しました。これに対して、政府は、「中央労働基準審議会就業規則等部会においても同報告を踏まえた議論が行われたが、結論には至っていない」と回答しました。

次に、質問主意書では、加藤厚生労働大臣が、家事使用人について実態調査を実施することを明らかにしたことを受けて、調査の進捗、とりまとめの時期等を質しました。これに対して、政府は、「現在、調査の開始及び取りまとめの時期、対象者、項目、手段、手法等について検討中」と回答しました。これは、現時点では何も決まっていないとみてよいでしょう。

次に質問主意書では、今後も「個人や家庭が家事労働者と直接雇用契約を結ぶケースは増加する」としたうえで、労働基準法第116条2項の削除を求めましたが、政府は慎重な態度を示しました。

最後に、質問主意書では、2011年月に国際労働機関(ILO)総会で採択された「家事労働者の適切な仕事に関する条約(家事労働者条約)」への批准を求めましたが、これに対しても、政府は慎重な態度を示しました。

このように、家事使用人については、当面現行制度のままになるといえそうですが、今回の痛ましい事故を教訓に、あるべき保護に関して議論が進展することを期待します。

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参考リンク

第210回国会 23 「家事使用人」が労働基準法の適用外であることに関する質問主意書(衆議院HP)