今回の記事、ざっくり言うと・・・

  • 「労災保険による療養補償給付」を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても負傷・疾病がなおらない場合に、打切り補償を行うことにより解雇制限が解除されることが、最高裁により認められた

image132今回は、8日に出た最高裁判例について見たいと思います。あまり報道はされてはいないようですが、就業規則の規定などにかかわりがありそうです。

この事件は、業務上の疾病(頚肩腕症候群)により休業し労災保険法による療養補償給付と休業補償給付を受けている労働者が、3年の欠勤、その後2年の休職期間を経過した後、雇い主である大学から打切補償として平均賃金の1200日分相当額(1629万3996円)の支払を受けた上でされ た解雇について争われたものです。

ところで、労基法19条では、業務上の傷病のために休業する期間とその後30日間は、解雇してはならないとする解雇制限が規定されています。したがって、原則として、業務上の疾病により休業していたこの労働者を解雇することはできません。

しかし、労基法81条では「労基法75条の療養補償」を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても負傷・疾病がなおらない場合に、使用者が平均賃金の1200日分の打切補償を行った後は、労基法の補償を行わなくてもよく、解雇制限も解除されると規定されています。

そして、この事件では、「労基法75条の療養補償」ではなく、「労災保険による療養補償給付」を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても負傷・疾病がなおらない場合に、打切り補償を行うことにより解雇制限が解除されるかどうかが争われたというわけです。

これについて、高裁判決では、「労災保険による療養補償給付を受ける労働者」については、打切り補償を行っても解雇制限は解除されず、したがってこの事件の解雇を無効と判断しました。高裁は、文言に忠実に解釈し、「労基法75条の療養補償」を「労災保険による療養補償給付を受ける労働者」と読み替えて適用することを許しませんでした。

これに対して、最高裁は、この読み替えを許容すると判断し、高裁判決を破棄し、解雇の有効性について審理を尽くすよう差し戻しました。

その理由として、判決文では、①労基法において「使用者の義務とされている災害補償は,これに代わるものとしての労災保険法に基づく保険給付が行われている場合にはそれによって実質的に行われているものといえる」ので、 会社の負担により災害補償が行われている場合と、これに代わるものとしての労災保険法に基づく保険給付が行われている場合と、解雇制限の適用の有無につき「 取扱いを異にすべきものとはいい難」く、また、②このように取り扱ったとしても、傷病が治るまでの間は労災保険法に基づく療養補償給付がされることなどから労働者の利益につきその保護を欠くことになるものともいい難いことを挙げました。

このように、文言に忠実に解釈した地裁、高裁に対して、最高裁は実質的な労働者の保護の必要性を検討したといえます。

この事件では頚肩腕症候群による休業でしたが、メンタルヘルス疾患についても、療養が長期にわたるケースも考えられます。業務上の災害による欠勤中も社会保険料負担は続くため、その負担は軽いものではありません。このような場合について、本判決によれば、解雇することも選択肢の一つとして考えることができることになります(なお、傷病等級に該当し、傷病補償年金を受けている場合、解雇制限が解除されます)。

ただし、その場合でも、打切補償の金額はかなりの額になること、また、解雇権濫用法理を定めた労契法16条が適用除外とされるわけではないことには留意してください(高裁への差し戻しもこの点について審理するため)。

■関連リンク

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/148/085148_hanrei.pdf(最高裁HP,PDF)

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