今回の記事をざっくりいうと・・・

  • 最高裁で、歓送迎会参加後、会社に戻る途中の交通事故について業務上の事由に該当する旨の最高裁判決
  • 当時の状況を総合的に勘案し、被災労働者は、事故の際、なお会社の支配下にあったというべきとされ、結論として「業務上の事由による災害に当たるというべき」とされた

DSC_00117月8日に最高裁で、労災に関する最高裁判決がありましたので、今回はこれについて取り上げたいと思います。

なお、この事件は、特殊な状況下における事例判決といえ、一般化は難しいケースのように思われますが、業務上災害が認められるかどうかの参考になりますので、以下で、概観したいと思います。

この事件は、株式会社Aに勤務していた労働者Bが交通事故により死亡したことに関し,その妻である上告人が,労災保険法に基づく遺族補償給付・葬祭料の支給を請求したところ,行橋労働基準監督署長から,Bの死亡は業務上の事由によるものに当たらないとして,不支給決定を受けたため、その取消しを求める事案です。

A社では、親会社の中国における子会社から中国人研修生を受け入れて2か月間の研修を行っており、このときも中国人研修生3名の帰国の日が近づき,次に受け入れる中国人研修生2名が来日してきたことから、翌日にこの5名の歓送迎会の開催が企画されていました。

しかし、Bは、社長に提出する資料の期限が目前に迫っていたことから一度は断ったものの、部長の参加への打診を受けたこともあり、当日は資料作成を途中で一時中断し、Bが使用していたA社所有の自動車を運転して作業着のまま参加しましたが、上司にも歓送迎会の終了後に本件工場に戻って仕事をする旨を伝え、隣に座った中国人研修生からビールを勧められた際にはこれを断り,アルコール飲料は飲まなかったと認定されています。

しかし、歓送迎会終了後、研修生らをアパートまで送った上で本件工場に戻るために酩酊状態の本件研修生らを同乗させて車両を運転し、アパートに向かう途中、対向車線を進行中の大型貨物自動車と衝突する交通事故に遭い、Bは死亡しました。その後、遺族らは行橋労働基準監督署長に対して、冒頭の労災保険の給付請求を行ったものの、業務上の事由に当たらないものとして、不支給決定が行われました。

以上の事実を前提に、原審は、本件歓送迎会が中国人研修生との親睦を深めることを目的として,本件会社の従業員有志によって開催された私的な会合であることなどを理由に業務上の事由によるものとはいえないと判断しました。

しかし、最高裁は、原審を破棄し、労基署長の決定を取り消す判断をしました。

本事件の論点は、従来の判決と同様に「労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にある状態において当該災害が発生した」かどうかという点です。

これについて、Bは、その事業活動に密接に関連するものである本件歓送迎会に参加しないわけにはいかない状況に置かれ,本件工場における自己の業務を一時中断してこれに途中参加することになり,歓送迎会の終了後に業務を再開するため社有車を運転して本件工場に戻るに当たり、併せて部長に代わり研修生らをアパートまで送っていた際に本件事故に遭ったものということができるから、本件歓送迎会が事業場外で開催され,アルコール飲料も供されたものであり、研修生らをアパートまで送ることが部長らの明示的な指示を受けてされたものとはうかがわれないこと等を考慮しても、Bは、事故の際、なおA社の支配下にあったというべきとされ、結論として「業務上の事由による災害に当たるというべき」とされました。

このように、本事件は、歓送迎会から仕事に戻る途中、しかも途中で研修生らをアパートに送り届ける途中の事故について、業務上であると判断されたものです。歓送迎会の参加への強制度や仕事のために再度会社に戻る途中で会ったことなどが判決に大きな影響を及ぼしているといえるでしょう。

参考リンク

判決全文(裁判所HP)

toiawase

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