今日の記事、ざっくり言うと

  • 採用当初の3年の契約期間に対する上告人の認識や契約職員の更新の実態等に照らせば,上記3年は試用期間であり,特段の事情のない限り,無期労働契約に移行するとの期待に客観的な合理性があるものというべきであることとした原審の判決が破棄し、雇止めを有効とした

今日は、昨年12月の有期雇用をめぐる最高裁判決(福原学園事件)を取り上げましょう。

この事件は,法人との間で有期労働契約を締結し,法人の運営する短期大学の教員として勤務していた元講師が,雇止めは許されないものであると主張して、労働契約上の地位の確認及び雇止め後の賃金の支払を求める事案です。

1.事実関係の概要

元講師は、平成23年4月1日、法人との間で,Y学園契約職員規程に基づき,契約期間を同24年3月31日までとする有期労働契約を締結して本件規程所定の契約職員となり,法人の運営するA短期大学の講師として勤務していました。

規程では、契約職員の雇用期間は,一事業年度の範囲内とし、契約職員が希望し,かつ,当該雇用期間を更新することが必要と認められる場合は,3年を限度に更新することがあり、この場合において,契約職員は在職中の勤務成績が良好であることを要するものとされていました。

さらに、勤務成績を考慮し、法人がその者の任用を必要と認め,かつ,当該者が希望した場合は,契約期間が満了するときに,期間の定めのない職種に異動することができるものとされていました。

その後の経過は次のようなものでした。

  • 法人は、平成24年3月19日に同月31日をもって本件労働契約を終了する旨を通知
  • 元講師は,同年11月6日,本件訴訟を提起
  • 法人は、平成25年2月7日,被上告人に対し,仮に本件労働契約が同24年3月31日をもって終了していないとしても,同25年3月31日をもって本件労働契約を終了する旨を通知
  • 法人は、平成26年1月22日付けで,被上告人に対し,本件規程において契約期間の更新の限度は3年とされているので,仮に本件労働契約が終了していないとしても,同年3月31日をもって本件労働契約を終了する旨を通知(これを「本件雇止め」といいます。)

なお、A短期大学を含む法人の運営する3つの大学において,平成18年度から同23年度までの6年間に新規採用された助教以上の契約職員のうち,同年度末時点において3年を超えて勤務していた者は10名であり,そのうち8名についての労働契約は3年目の契約期間の満了後に期間の定めのないものとなっていました。

2.原審の判断

原審はこのような事実関係等の下で、採用当初の3年の契約期間に対する上告人の認識や契約職員の更新の実態等に照らせば,上記3年は試用期間であり,特段の事情のない限り,無期労働契約に移行するとの期待に客観的な合理性があるものというべきであることなどを理由に、本件雇止めの前に行われた2度の雇止めの効力をいずれも否定して本件労働契約の1年ごとの更新を認めた上で、平成26年4月1日から無期労働契約に移行したとしました。

3.最高裁の判断

最高裁は、次のように述べて、本件労働契約が期間の定めのないものとなるか否かは,被上告人の勤務成績を考慮して行う上告人の判断に委ねられているものというべきであり,本件労働契約が3年の更新限度期間の満了時に当然に無期労働契約となることを内容とするものであったと解することはできないとしました。

  1. 本件規程には,契約期間の更新限度が3年であり,その満了時に労働契約を期間の定めのないものとすることができるのは,これを希望する契約職員の勤務成績を考慮して法人が必要であると認めた場合である旨が明確に定められていたのであり、元講師もこのことを十分に認識した上で本件労働契約を締結したものとみることができること
  2. 上記に加え、元講師が大学の教員として雇用された者であり、大学の教員の雇用については一般に流動性のあることが想定されていることや,上告人の運営する三つの大学において,3年の更新限度期間の満了後に労働契約が期間の定めのないものとならなかった契約職員も複数に上っていたこと

そして,法人が本件労働契約を期間の定めのないものとする必要性を認めていなかったことは明らかで、他に,本件事実関係の下において,本件労働契約が無期となったと解すべき事情を見いだすことはできないとして、本件労働契約は、平成26年4月1日から期間の定めのないものとなったとはいえず,同年3月31日をもって終了したというべきであるとしました。

本判決は、上記のように、「大学の教員の雇用については一般に流動性のあることが想定されている」ことを前提としており、その意味で特殊なケースといえますが、有期労働契約の後に無期労働契約に移行することが規定されている場合であっても、適切な運用が伴っていれば、雇止めすることができるとされました。これは、有期労働契約のマネジメントとして、適切に更新を行うことが重要であることを示唆しているといえます。

ところで、櫻井裁判官が補足意見で「有期労働契約が引き続き更新されるであろうと いう期待と,無期労働契約に転換するであろうという期待とを同列に論ずることが できないことは明らかであり,合理性の判断基準にはおのずから大きな差異がある」としました。これは、無期労働契約への転換の期待は単に有期労働契約の更新への期待よりも、高いレベルのものを求めているといえるでしょう。

参考リンク

判決文(最高裁判所HP,PDF)

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