前回に引き続き、「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)」についてみていきましょう。今回は、裁量労働制に関係する部分を取り上げます。

初めに、対象業務については、「銀行又は証券会社において、顧客に対し、合併、買収等に関する考案及び助言をする業務」を専門型の対象とすることが適当とされました。当初は、更なる対象業務の拡大もあるのではないかと思われていましたが、今回の改正による対象業務の拡大はこれのみとなりそうです。

一方、専門型について、以下の事項が「適当」とされました。

  • 本人同意を得ることや同意をしなかった場合に不利益取扱いをしないこととすること
  • 同意を得る際に、使用者が労働者に対し制度概要等について説明すること
  • 同意の撤回の手続を定めることとすること
  • 同意を撤回した場合に不利益取扱いをしてはならないことを示すこと

このように専門型の適用について、本人に選択権を与えなければならないことになりそうです。

また、裁量労働制について、「労働者から時間配分の決定等に関する裁量が失われた場合には、労働時間のみなしの効果は生じないものであることに留意することを示すこと」が適当とされました。ただ、規制としてはあいまいなものであることはいなめないでしょう。会社としては、管理者等に制度の趣旨を理解させるなどの対応は必要といえます。

次に労働者の健康と処遇の確保については、健康・福祉確保措置の追加(勤務間インターバルの確保、深夜業の回数制限、労働時間の上限措置、医師の面接指導)等を行うことが適当とされました。これらは、上記の「時間配分の決定」についての本人の裁量を狭めるものですが、健康・福祉確保措置が目的であるため許容されるという整理になるのでしょうか。

みなし労働時間の設定にあたっては「対象業務の内容、賃金・評価制度を考慮して適切な水準とする必要があることや対象労働者に適用される賃金・評価制度において相応の処遇を確保する必要があることを示すこと等」が適当とされました。

次に、労使コミュニケーションの促進等を通じた適正な制度運用の確保に関する措置が提案されています。たとえば、労使委員会の決議に先立って、労使委員会に「対象労働者に適用される賃金・評価制度の内容について説明することとすること」などです。

また、「労使委員会の開催頻度を6か月以内ごとに1回とするとともに、労働者側委員の選出手続の適正化を図る」こと等についても適当とされました。なお、「専門型についても労使委員会を活用することが望ましいことを明らかにすることが適当」とされましたが、「望ましい」とする文言から、現時点では、直ちに必須の要件となることはないと思われます。

行政の関与・記録の保存等については、6か月以内ごとに行うこととされている企画型の定期報告の頻度を、初回は6か月以内に1回、その後は1年以内ごとに1回とすることが適当とされました。この点は、手続き要件の緩和といえるでしょう。同様の趣旨のものとして、労使協定・労使委員会決議の本社一括届出を可能となる見込みです。

健康・福祉確保措置の実施状況等に関する書類については、「労働者ごとに作成し、保存することとすることが適当」とされました。

以上のように、裁量労働制については、かねてから長時間労働の温床になっているのではないかとする問題意識から、厳格化する方向での改正が行われることになりそうです。施行時期は未定ですが、それまでに自社の運用状況などを確認するのがよいでしょう。

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参考リンク

労働政策審議会労働条件分科会報告「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)」を公表します(厚生労働省HP)