image102「『多様な正社員』の普及・拡大のための有識者懇談会」が報告書をとりまとめ、公表しました。これは、「日本再興戦略」などを踏まえ、「多様な正社員」の雇用管理をめぐる課題について検討したものです。

本報告書では、代表的な「多様な正社員」として、①勤務地限定正社員、②職務限定正社員、③勤務時間限定正社員を取り上げており、それぞれの活躍が期待できるケースとして、つぎのものを挙げています。

① 勤務地限定正社員の活用が期待できるケース

  • 育児や介護の事情で転勤が難しい者などについて、就業機会の付与と継続を可能とする。
  • 有期契約労働者の多い業種において、改正労働契約法に基づく有期契約労働者からの無期転換の受皿として活用できる。
  • 安定雇用の下で技能の蓄積・承継が必要な生産現場における非正規雇用からの転換の受皿として、また、多店舗経営するサービス業における地域のニーズにあったサービスの提供や顧客の確保のために、それぞれ活用できる。

② 職務限定正社員の活用が期待できるケース

  • 金融、ITなどで特定の職能について高度専門的なキャリア形成が必要な職務において、プロフェッショナルとしてキャリア展開していく働き方として活用できる。
  • 資格が必要とされる職務、同一の企業内で他の職務と明確に区別できる職務で活用できる。
  • 高度な専門性を伴わない職務に限定する場合、職務の範囲に一定の幅を持たせた方が円滑な事業運営に資する。

③ 勤務時間限定正社員

  • 育児や介護の事情で長時間労働が難しい者などについて、就業機会の付与と継続を可能とする。
  • 労働者がキャリア・アップに必要な能力を習得する際に、自己啓発のための時間を確保できる働き方として活用できる。
  • 勤務時間限定の働き方の前提として、職場内の適切な業務配分、長時間労働を前提としない職場づくりの取組が必要である。

本報告書では、これらの「多様な正社員」を導入するにあたっては、限定の内容について明示することにより、紛争の未然防止、労働者にとってキャリア形成の見通しの明確化やワーク・ライフ・バランスの実現が容易になり、企業にとっては優秀な人材を確保しやすくなる効果があるとされています。これは、就業規則や労働契約において職務や勤務地を限定している企業は多くはなく(職務限定については約5割、勤務地限定については約3割)、就業規則や労働契約では職務や勤務地を限定していないが実際には職務や勤務地を限定している企業も多い(職務限定、勤務地限定ともに約5割)といった実態をふまえたものです。

また、「多様な正社員」に反対する人たちが懸念していた、事業所閉鎖や職務の廃止による解雇についても、裁判例の分析が行われています。

まず、整理解雇については、勤務地や職務が限定されていても、事業所閉鎖や職務廃止の際に直ちに解雇が有効となるわけではなく、整理解雇法理(4要件・4要素)を否定する裁判例はなく、解雇の有効性は、人事権の行使や労働者の期待に応じて判断される傾向があるとされました。この点は、当然であるように思われます。

具体的には、勤務地限定や高度な専門性を伴わない職務限定などにおいては、解雇回避のための措置として配置転換が求められる傾向にあり、他方、高度な専門性を伴う職務や他の職務と明確に区別される職務に限定されている場合には、配置転換に代わり、退職金の上乗せや再就職支援によって解雇回避努力を尽くしたとされる場合もみられるとされています。

また、能力不足による解雇についても、それを理由とする解雇が直ちに認められるわけではなく、高度な専門性を伴わない職務限定では、改善の機会を付与するための警告に加え、教育訓練、配置転換、降格などが求められる傾向がみられること、また、高度な専門性を伴う職務に限定されている場合には、教育訓練、配置転換、降格などが不要とされる場合もあるが、改善の機会を付与するための警告は、必要とされる傾向がみられることが指摘されています。

以上の分析は、「解雇権濫用法理」が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」の解雇を無効と定められているところ、職務も勤務地も限定されない典型的な正社員と「多様な正社員」では、その前提が異なり、その差異に応じて解釈も異なるという当然の結論であるように思われます。

さて、先日も書いたことですが、「多様な正社員」がなじむかどうかは、会社によって個別に検討する必要があるでしょう。そこで、自社で導入するかどうか迷っている場合には、最初に上げた「活躍が期待できるケース」の中に該当するものがあるかどうかを検討してみるとよいでしょう。

ただし、従業員の種別が複線化すれば、労務管理が複雑になることは避けられないでしょう。多くの場合、多様な正社員は、従来型の正社員とアルバイトの中間に位置づけられることになると思いますが、基本的な労働条件を設定するにあたって、手当や特別休暇、休職、福利厚生などについてどちらに寄せるのかを検討することになるでしょう。職務限定社員については、賃金体系や評価の方法なども従来型正社員とは大きく異なることも考えられ、これにはそれなりの時間を要するものと思われます。

また、すでに「多様な正社員」を導入している会社においても、本報告書では労務管理のポイントがまとめられており、参考になるでしょう。

■関連リンク

「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会報告書をとりまとめました(厚労省HP)

 

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