今回は、労働者と使用者との間に職種を限定する旨の合意がある場合において、使用者がした異なる職種等への配置転換命令につき、配置転換命令権の濫用に当たらないとした原審の判断について争われた最高裁判決についてみていきましょう。

この事件の概要は、以下の通りです。

滋賀県立長寿社会福祉センターの一部である滋賀県福祉用具センターにおいては、福祉用具の展示・普及、利用者からの相談に基づく改造・製作および技術の開発等の業務を行うものとされており、平成15年4月以降、財団法人の権利義務を承継した使用者が、指定管理者等として業務を行っていました。労働者は、平成13年3月に財団法人に、上記の改造・製作・技術の開発に係る技術職として雇用されて以降、勤務していました。労働者と使用者との間には、職種および業務内容を上記技術職に限定する旨の合意がありました。しかし、使用者は、労働者に対し、その同意を得ることなく、平成31年4月1日付けでの総務課施設管理担当への配置転換を命じました。この配置転換の適法性がこの裁判の争点です。

原審は、この配転命令について、配置転換命令権の濫用に当たらず、違法であるとはいえないと判断し、本件損害賠償請求を棄却すべきものとしましたが、最高裁はこれを破棄し、高裁へ差し戻しました。

その理由については、職種や業務内容を限定する旨の合意がある場合には、労働者の個別的同意なしに合意に反する配置転換を命ずる権限を有しないと解されるとし、使用者が労働者の同意を得ることなくした配転命令につき、原審の判断に、明らかな法令の違反があるとしました。

今後、高裁では、不法行為を構成すると認めるに足りる事情の有無や、配置転換に関して労働者が負う雇用契約上の債務の内容およびその不履行の有無等について審理されることになります。

このように職種や業務限定の契約の場合には、限定された職種や業務以外の職種や業務に配置転換等を行うためには、労働者の個別の同意が必要であることが最高裁が明確にされましたので、実務上注意が必要です。

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参考リンク

裁判例結果詳細(裁判所HP)