今回は、令和6年度介護報酬改定に関する行政通達を見てみましょう。

今回の報酬改定では、①事業者の賃金改善や申請に係る事務負担を軽減する観点、②利用者にとって分かりやすい制度とし、利用者負担の理解を得やすくする観点、③事業所全体として、柔軟な事業運営を可能とする観点から、処遇改善に係る加算の一本化を行うこととされました。

具体的には、旧処遇改善加算、旧特定加算および旧ベースアップ等加算の各区分の要件及び加算率を組み合わせる形で、「介護職員等処遇改善加算」への一本化が行われます。

その上で、令和6年度介護報酬改定における介護職員の処遇改善分の改定率+0.98%を活用し、新加算の加算率の引上げを行うとともに、介護現場で働く方々にとって、令和6年度に2.5%、令和7年度に2.0%のベースアップへとつながるよう、配分方法の工夫を行うとしています。

新加算の施行に当たっては、賃金規程の見直し等の事業者の事務負担に配慮し、令和6年度中は経過措置期間を設けることとされています。具体的には、後述する月額賃金改善要件Ⅰと、職場環境等要件の見直しについては、令和6年度中は適用を猶予する。また、キャリアパス要件Ⅰからキャリアパス要件Ⅲまでについても、令和6年度中に賃金体系等を整備することを誓約した場合に限り、令和6年度当初から要件を満たしたこととして差し支えないこととされました。

さらに、一本化施行前の令和6年5月31日時点で旧3加算の全部または一部を算定している場合には、旧3加算の算定状況に応じた経過措置区分として、令和6年度末までの間、それぞれ新加算Ⅴ⑴~⒁を算定できることとされました。

はじめに、新加算等の単位数については、令和6年6月以降は、新加算の単位数として、サービス別の基本サービス費に各種加算減算(新加算を除く。)を加えた1月当たりの総単位数に、加算区分ごとに、サービス類型別の加算率を乗じた単位数を算定することとされました。ただし、基準上介護職員が配置されていない、訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導、福祉用具貸与、特定福祉用具販売、介護予防訪問看護、介護予防訪問リハビリテーション、介護予防居宅療養管理指導、介護予防福祉用具貸与および特定介護予防福祉用具販売ならびに居宅介護支援および介護予防支援については、新加算および旧3加算(以下「新加算等」という。)の算定対象外とされています。

なお、新加算等は、区分支給限度基準額の算定対象から除外されます。

次に、賃金改善の実施に係る基本的な考え方についてみていきましょう。

介護サービス事業者等は、新加算等の算定額に相当する介護職員その他の職員の賃金(基本給、手当、賞与等(退職手当を除く。以下同じ。)を含む。)の改善(当該賃金改善に伴う法定福利費等の事業主負担の増加分を含むことができる。)を実施しなければなりません。

その際、賃金改善は、基本給、手当、賞与等のうち対象とする項目を特定した上で行うものとされました。この場合、特別次条届出書の届出を行う場合を除き、特定した項目を含め、賃金水準(賃金の高さの水準をいう。以下同じ。)を低下させてはなりません。また、安定的な処遇改善が重要であることから、基本給による賃金改善が望ましいとされています。

また、令和6年度に、令和5年度と比較して増加した加算額(旧3加算の上位区分への移行並びに新規算定によるもの(令和6年4月及び5月分)又は令和6年度介護報酬改定における加算率の引上げ分及び新加算Ⅰ~Ⅳへの移行によるもの(令和6年6月以降分)。令和7年度への繰越分を除く。以下同じ。)について、独自の賃金改善を含む過去の賃金改善の実績に関わらず、新たに増加した新加算等の算定額に相当する介護職員その他の職員の賃金改善を新規に実施しなければなりません。その際、新規に実施する賃金改善は、ベースアップにより行うことが基本とされます。ここでベースアップとは、賃金表の改訂により基本給または決まって毎月支払われる手当の額を変更し、賃金水準を一律に引き上げることをいいます。ベースアップのみにより賃金改善を行うことができない場合(例えば、令和6年度介護報酬改定を踏まえ賃金体系等を整備途上である場合)には、必要に応じて、その他の手当、一時金等を組み合わせて実施しても差し支えないとされています。

新加算等を用いて行う賃金改善における職種間の賃金配分については、介護職員への配分を基本とし、特に「経験・技能のある介護職員」に重点的に配分することとされていますが、介護サービス事業者等の判断により、介護職員以外の職種への配分も含め、事業所内で柔軟な配分を認めることとされています。ここで「経験・技能のある介護職員」とは、介護福祉士であって、経験・技能を有する介護職員と認められる者をいいます。具体的には、介護福祉士の資格を有するとともに、所属する法人等における勤続年数 10年以上の介護職員を基本としつつ、他の法人における経験や、職員の業務や技能等を踏まえ、各事業者の裁量で設定するものです。

ただし、例えば、一部の職員に加算を原資とする賃金改善を集中させることや、同一法人内の一部の事業所のみに賃金改善を集中させることなど、職務の内容や勤務の実態に見合わない著しく偏った配分は行わないこととされています。

この点について、厚労省のQ&Aによれば、事業所(法人)全体での賃金改善が要件を満たしていれば、一部の介護職員を対象としないことは可能とされています。ただし、例えば、一部の職員に加算を原資とする賃金改善を集中させることや、同一法人内の一部の事業所のみに賃金改善を集中させることなど、職務の内容や勤務の実態に見合わない著しく偏った配分は行わないことが求められます。また、新加算等を算定する介護サービス事業者等は、当該事業所における賃金改善を行う方法等について職員に周知するとともに、介護職員等から新加算等に係る賃金改善に関する照会があった場合は、当該職員についての賃金改善の内容について、書面を用いるなど分かりやすく回答することとされています(R6.3.15Q&A問2-5)。

また、法人本部の職員など介護に従事していない職員についても、新加算等の算定対象となるサービス事業所等における業務を行っていると判断できる場合には、賃金改善の対象に含めることができます。ただし、新加算等を算定していない介護サービス事業所等(加算の対象外サービスの事業所等を含む。)および介護保険以外のサービスの事業所等の職員は、新加算等を原資とする賃金改善の対象に含めることはできません(Q&A問2-7)。

令和6年度介護報酬改定においては、介護職員の処遇改善分の改定率+0.98%を活用し、新加算の加算率の引上げが行われます。その際、介護現場で働く方々にとって、令和6年度に2.5%、令和7年度に2.0%のベースアップへとつながるよう、介護サービス事業者等の判断により、令和6年度に令和5年度と比較して増加した加算額の一部を令和7年度に繰り越した上で令和7年度分の賃金改善に充てることを認めることとし、令和6年度分の加算の算定額の全額を令和6年度分の賃金改善に充てることは求めないとされました。

その際、令和7年度の賃金改善の原資として繰り越す額の上限は、令和6年度に、仮に令和5年度末(令和6年3月)時点で算定していた旧3加算を継続して算定する場合に見込まれる加算額と、令和6年度の新加算等の加算額(処遇改善計画書においては加算の見込額をいう。)を比較して増加した額とされます。

なお、「令和6年度に 2.5%、令和7年度に 2.0%のベースアップ」は処遇改善加算の算定要件ではなく、各介護サービス事業所・施設等で目指すべき目標とされています(R6.3.15Q&A問1-10)。なお、新加算の加算額については、令和6・7年度の2か年で全額が賃金改善に充てられていればよいとされています。

繰越額については、全額を令和7年度の更なる賃金改善に充てることについて、処遇改善計画書および実績報告書において誓約した上で、令和7年度の処遇改善計画書・実績報告書において、当該繰越額を用いた賃金改善の計画・報告の提出が求められることになります。

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参考リンク

介護職員の処遇改善(厚生労働省HP)