今回も、前回にひきつづき、新しい介護職員処遇改善加算の行政通達に基づいて、解説していきます。今回は介護職員等処遇改善加算(新加算)の要件についてみていきます。
新加算Ⅰの算定に当たっては、2に規定する賃金改善の実施に加え、以下の①から⑧までに掲げる要件を全て満たすことが必要です。新加算Ⅱについては⑦の要件、新加算Ⅲについては⑥及び⑦の要件、新加算Ⅳについては⑤から⑦までの要件を満たさなくても算定することができます。つまり、新加算Ⅱを受けるためには①~⑥、新加算Ⅲを受けるためには①~⑤、新加算Ⅳを受けるためには①~④をぞれぞれ満たす必要があるというわけです。また、いずれの加算区分においても、①の要件については、令和6年度中は適用が猶予されます。
- 月額賃金改善要件Ⅰ(月給による賃金改善)
- 月額賃金改善要件Ⅱ(旧ベースアップ等加算相当の賃金改善
- キャリアパス要件Ⅰ(任用要件・賃金体系の整備等)
- キャリアパス要件Ⅱ(研修の実施等)
- キャリアパス要件Ⅳ(改善後の年額賃金要件)
- キャリアパス要件Ⅲ(昇給の仕組みの整備等)
- キャリアパス要件Ⅴ(介護福祉士等の配置要件)
- 職場環境等要件
これらの「要件」と「加算」の関係をまとめた図が以下のものです。
① 月額賃金改善要件Ⅰ
月額賃金改善要件Ⅰは、新加算Ⅳの加算額の2分の1以上を基本給または決まって毎月支払われる手当の改善に充てることが必要です。また、事業所等が新加算ⅠからⅢまでのいずれかを算定する場合にあっては、仮に新加算Ⅳを算定する場合に見込まれる加算額の2分の1以上を基本給等の改善に充てることが必要です。
ここで、「毎月支払われる手当」とは、労働と直接的な関係が認められ、労働者の個人
的事情とは関係なく支給される手当を指すものとされています。また、決まって毎月支払われるのであれば、月ごとに額が変動するような手当も含みます。ただし、月ごとに支払われるかどうかが変動するような手当や通勤手当、扶養手当などの労働と直接的な関係の薄い諸手当は、新加算等の算定、賃金改善の対象となる「賃金」には含めて差し支えないが、「決まって毎月支払われる手当」には含まれません(R6.3.15Q&A問1-3)。
また、基本給が時給制の職員について、時給の上乗せの形で支給される手当についても、「決まって毎月支払われる手当」と同等のものと取り扱って差し支えないとされています(同1-4)。
なお、加算を未算定の事業所が新規に新加算ⅠからⅣまでのいずれかを算定し始める場合を除き、本要件を満たすために、賃金総額を新たに増加させる必要はありません。したがって、基本給等以外の手当または一時金により行っている賃金改善の一部を減額し、その分を基本給等に付け替えることで、本要件を満たすこととして差し支えないとされています。
ただし、一部の 職員の収入が減額されるような付け替えについては、「介護サービス事業所等は、月額賃金改善要件Ⅰを満たすような配分を行った結果、事業所全体での賃金水準が低下しないようにするだけでなく、各職員の賃金水準が低下しないよう努めること」とされています(同3-1)。
また、既に本要件を満たしている事業所等においては、新規の取組を行う必要はありません。ただし、この要件を満たすために、新規の基本給等の引上げを行う場合、当該基本給等の引上げはベースアップにより行うことが基本となります。
なお、月額賃金改善要件Ⅰについては、令和6年度中は適用が猶予されます。ただし、令和7年度以降の新加算の算定に向け、計画的に準備を行う観点から、令和6年度の処遇改善計画書においても任意の記載項目として月額での賃金改善額の記載を求めることとされています。
② 月額賃金改善要件Ⅱ(旧ベースアップ等加算相当の賃金改善)
月額賃金改善要件Ⅱは、令和6年5月31日時点で現に旧処遇改善加算を算定しており、かつ、旧ベースアップ等加算を算定していない事業所が、令和8年3月31日までの間において、新規に新加算ⅠからⅣまでのいずれかを算定する場合に、初めて新加算ⅠからⅣまでのいずれかを算定し、旧ベースアップ等加算相当の加算額が新たに増加する事業年度において、当該事業所が仮に旧ベースアップ等加算を算定する場合に見込まれる加算額の3分の2以上の基本給等の引上げを新規に実施しなければなりません。その際、当該基本給等の引上げは、ベースアップにより行うことが基本となります。
また、令和6年5月以前に旧3加算を算定していなかった事業所及び令和6年6月以降に開設された事業所が、新加算ⅠからⅣまでのいずれかを新規に算定する場合には、月額賃金改善要件Ⅱの適用は受けません。
本要件の適用を受ける事業所は、初めて新加算ⅠからⅣまでのいずれかを算定した年度の実績報告書において、当該賃金改善の実施について報告しなければなりません。また、同様の事業所が、令和6年6月から新加算Ⅴ⑴(旧ベースアップ加算相当の加算率を含まない)を算定し、令和7年4月から新加算Ⅰを算定する場合は、令和7年4月から旧ベースアップ等加算相当の加算額の3分の2以上の基本給等の引上げを新規に実施し、令和7年度の実績報告書で報告しなければなりません。
③キャリアパス要件Ⅰ(任用要件・賃金体系の整備等)
本要件を満たすためには、次の1から3までを全て満たすことが必要です。
- 介護職員の任用の際における職位、職責、職務内容等に応じた任用等の要件(介護職員の賃金に関するものを含む。)を定めていること。
- 1に掲げる職位、職責、職務内容等に応じた賃金体系(一時金等の臨時的に支払われるものを除く。)について定めていること。
- 1および2の内容について就業規則等の明確な根拠規程を書面で整備し、全ての介護職員に周知していること。
ただし、常時雇用する者の数が10人未満の事業所等など、労働法規上の就業規則の作成義務がない事業所等においては、就業規則の代わりに内規等の整備・周知により上記3の要件を満たすこととしても差し支えないとされています。
また、令和6年度に限り、処遇改善計画書において令和7年3月末までに上記1および2の定めの整備を行うことを誓約すれば、令和6年度当初からキャリアパス要件Ⅰを満たすものとして取り扱っても差し支えないとされています。ただし、必ず令和7年3月末までに当該定めの整備を行い、実績報告書においてその旨を報告することが必要です。
④キャリアパス要件Ⅱ(研修の実施等)
本要件を満たすためには、次の1および2を満たす必要があります。
- 介護職員の職務内容等を踏まえ、介護職員と意見を交換しながら、資質向上の目標及びaまたはbに掲げる事項に関する具体的な計画を策定し、当該計画に係る研修の実施又は研修の機会を確保していること。
- 資質向上のための計画に沿って、研修機会の提供又は技術指導等(OJT、OFF-JT等)を実施するとともに、介護職員の能力評価を行うこと。
- 資格取得のための支援(研修受講のための勤務シフトの調整、休暇の付与、費用(交通費、受講料等)の援助等)を実施すること。
- 1について、全ての介護職員に周知していること。
ここで、「介護職員と意見を交換しながら」とは、様々な方法により、 可能な限り多くの介護職員の意見を聴く機会(例えば、 対面に加え、労働組合がある場合には労働組合との意見交換のほか、 メール等による意見募集を行う等)を設けるように配慮することが望ましいとされています(Q&A問4-2)。
aの「資質向上のための計画」とはどのようなものが考えられるのかについては、特に様式や基準等を設けておらず、事業者の運営方針や事業者が求める介護職員像及び介護職員のキャリア志向に応じて適切に設定することができます。また、計画期間等の定めは設けておらず、必ずしも賃金改善実施期間 と合致していなくともよいです。厚労省のQ&Aでは以下のものが例示されていま(Q&A問4-4)。
また、キャリアパス要件Ⅱの「介護職員の能力評価」とは、個別面談 等を通して 、 例えば、職員の 自己評価に対し 、先輩職員・サービス担当責任者・ユニットリーダー・管理者等が評価を行う手法が考えられるとされおり、こうした機会を適切に設けているのであれば、必ずしも 全て の介護職員に対して
評価を行う必要はないとされています(Q&A問4-5)。
なお、令和6年度に限り、処遇改善計画書において令和7年3月末までに上記1の計画を策定し、研修の実施または研修機会の確保を行うことを誓約すれば、令和6年度当初からキャリアパス要件Ⅱを満たすものとして取り扱っても差し支えないとされています。ただし、必ず令和7年3月末までに当該計画の策定等を行い、実績報告書においてその旨を報告することが必要です。
ここまでの要件(①~④)満たすことにより、新加算Ⅳを受けるための要件を満たすことになります。