労基法研究会報告書①

労働基準法制研究会が「労働基準法制研究会報告書」を公表しました。
本研究会は「新しい時代の働き方に関する研究会」の報告書において、全ての働く人を「守る」ことと、働く人の多様な希望を「支える」ことの2つを柱として、今後の労働基準関係法制の課題と目指すべき方向性が取りまとめられたことをうけて、これからの社会や経済の構造変化にどのように対応するべきかという視点に立って、労働基準関係法制の将来像について抜本的な検討を加えるとともに、現在直面している厚生労働行政の課題を踏まえ、喫緊に対応しなければならない課題としてどのようなものがあるかについて、専門的見地から研究し、報告することを目的として設置されたものです(P5~6)。
そして、本研究会では、現在の労基法の構造的な問題として、規制の内容が複雑化し、労働者にとっても使用者にとっても分かりづらいものとなってしまっている現状をふまえ、シンプルかつ実効性のある形で法令において定め、その上で、労使の合意等の一定の手続の下に個別の企業、事業場、労働者の実情に合わせて法定基準の調整・代替を法所定要件の下で可能とすることが、今後の労働基準関係法制の検討に当たっては重要であるという方向性が示されました(P5)。
こうした観点から、報告書では、議論の柱を次のように整理しました。
- 労働基準関係法制に共通する総論的課題
- 労働基準法における「労働者」について
- 労働基準法における「事業」について
- 労使コミュニケーションの在り方について
- 労働時間法制の具体的課題
以下では、これらを数回に分けて、順に見ていきたいと思います。
1-1 労働基準法における「労働者」について
労働基準法による保護の対象者は、同法第9条に規定する「労働者」であり、「職業の種類を問わず、事業又は事務所・・・に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義されています。しかし、実際に、労働法上の責任や社会保障負担等を免れる目的から、本来「労働者」として雇用すべき者を請負事業者として扱うといった、法を潜脱しようとする事案も生じているところです。このような「誤分類」は強行的に是正されるべきとされています(P10)。
一方、「労働者」であるか否かにつき共通の判断を行うため、昭和60年労働基準法研究会報告にまとめられた判断要素を参考とされていますが、その後、テレワークの定着やプラットフォームワーカーの拡大、AIやアルゴリズムによる労務管理のデジタル化等も発展している中で、労働者性判断の分かりにくさが増大し、予見可能性が低くなりつつあります。そこで、こうした新しい働き方への対応や、実態として「労働者」である者に対し労働基準法を確実に適用する観点から、労働者性判断の予見可能性を高めていくことが求められています(P12)。
そこで、昭和60年労働基準法研究会報告以降の約40年で積み重ねられた事例・裁判例等をしっかりと分析・研究し、学説も踏まえながら、その表現をより適切に修正すべき点がないかという点も含めて、見直しの必要性を検討していく必要があると考えられるとされています(P12)。
1-2 労働基準法における「事業」について
「新しい時代の働き方に関する研究会」の報告書で、就業規則の制定単位を始めとして、労働条件の設定に関する法制適用の単位が事業場単位を原則とし続けることが妥当なのかどうか、リモートワークの普及等により、物理的な場所としての事業場のみに依拠しない監督指導の在り方等を検討することが必要であることなどの問題提起がなされました。これを受けて、本報告書では、法制度の実効的な適用を確保するという観点から、労働基準関係法制における「事業」の概念については、将来的な労使コミュニケーションの在り方も含め検討していく必要があるされました(P17)。
1-3 労使コミュニケーションのあり方について
本研究会では、次の労使コミュニケーションの在り方について、現行制度の改善点を中心に議論されました。
- 法律で定められた規制の原則的な水準について、労使の合意等の一定の手続の下に、個別の企業、事業場、労働者の実情に合わせて、法所定要件の下で法定基準を調整・代替するもの
- 上記の法定基準の調整・代替に係る労使協定の遵守状況のモニタリングや労使間の苦情・紛争処理等を通じた労働条件規範の遵守に関するもの
こうした仕組みが有効に弊害なく機能するためには、それを支える基盤として、労働者が意見を集約して使用者と実効的なコミュニケーションを行い得る環境が整備されていることも必要となります。そのためには、労使ができるだけ対等にコミュニケーションを図り、適正な内容の調整・代替を行うことのできる環境が整備されていることが重要であると指摘されました。
そこで、現行の過半数代表制の抱える課題の解消に早急に取り組むべきとされました。本研究会では、今日的な集団的労使コミュニケーションの課題と改善方法にどのようなものがあるかについて検討を加え、労働組合の役割、過半数代表者の適正選出と基盤強化、労使協定等の複数事業場での一括手続等について検討がおこなわれました。
労働組合による労使コミュニケーションについては、 「労働組合が実質的で効果的な労使コミュニケーションを実現する中核となる」としつつ、その組織率の長期的低下している現状をふまえ、過半数労働組合にも適用可能を考える必要があるとされ、その例として、「労働組合が過半数代表として活動する場合の活動時間の確保や、使用者からの必要な情報の提供、意見集約のための労働者へのアクセス保障など」が提案されています。
一方、過半数代表者制度については、適正選出の確保と基盤強化のため、以下の事項について明確にしていくことが必要とされています。
- 労働基準法における「過半数代表」、その下位概念である「過半数労働組合」、「過半数代表者」の定義
- 過半数代表者の選出手続
- 過半数代表、過半数労働組合、過半数代表者の担う役割及び使用者による情報提供や便宜供与、権利保護(不利益取扱いを受けないこと等)
- 過半数代表として活動するに当たっての過半数代表者への行政機関等の相談支援
- 過半数代表者の人数や任期の在り方 など
なお、「現行法においては、過半数代表者は原則として手続ごとにその都度選出されるのが基本であるが、任期を定めて選出することは否定されていない」との記述があり、実務上参考になります。



