東京都でカスタマーハラスメント防止条例が施行されたことが報道されるなど、近年カスタマーハラスメント対策が企業の重要な課題として注目されています。そこで、今回は2022年に厚生労働省が策定したカスタマーハラスメント対策企業マニュアルに基づいて、対策の概要を見ていくことにしましょう。

本マニュアルでは、カスタマーハラスメント対策の基本的な枠組みとして、以下の取組みを推奨しています。

<カスタマーハラスメントを想定した事前の準備>

  1. 事業主の基本方針・基本姿勢の明確化、従業員への周知・啓発
  2. 従業員(被害者)のための相談対応体制の整備
    • カスタマーハラスメントを受けた従業員が相談できるよう相談対応者を決めておく、または相談窓口を設置し、従業員に広く周知する。
    • 相談対応者が相談の内容や状況に応じ適切に対応できるようにする。
  3. 対応方法、手順の策定
    • カスタマーハラスメント行為への対応体制、方法等をあらかじめ決めておく。
  4. 社内対応ルールの従業員等への教育·研修
    • 顧客等からの迷惑行為、悪質なクレームへの社内における具体的な対応について、従業員を教育する。

<カスタマーハラスメントが実際に起こった際の対応>

  1. 事実関係の正確な確認と事案への対応
    • カスタマーハラスメントに該当するか否かを判断するため、顧客、従業員等からの情報を基に、その行為が事実であるかを確かな証拠·証言に基づいて確認する。
    • 確認した事実に基づき、商品に瑕疵がある、またはサービスに過失がある場合は謝罪し、商品の交換·返金に応じる。瑕疵や過失がない場合は要求等に応じない。
  2. 従業員への配慮の措置
  3. 被害を受けた従業員に対する配慮の措置を適正に行う(繰り返される不相当な行為には一人で対応させず、複数名で、あるいは組織的に対応する。メンタルヘルス不調への対応等)。
  4. 再発防止のための取組
    • 同様の問題が発生することを防ぐ(再発防止の措置)ため、定期的な取組の見直しや改善を行い、継続的に取組を行う。
  5. 上記の措置と併せて講ずべき措置
    • 相談者のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、従業員に周知する。
    • 相談したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、従業員に周知する。

これらのうち、とりわけ重要なのが、被害者のための相談対応体制の整備と対応方法、手順の策定です。

相談対応体制を行うに当たっては、カスタマーハラスメントを受けた従業員が気軽に相談できるように相談対応者を決めておき、または相談窓口を設置して従業員に広く周知します。

相談対応者は、相談者の心身の状況や受け止め方など認識にも配慮しながら慎重に相談に応じ上記対応を実現するためには、人事労務部門や法務部門、外部関係機関(弁護士等)と連携できるような体制を構築するとともに、具体的な対応方法をまとめたマニュアルを整備し、相談対応者向けに定期的に研修等を実施することが有効とされています。

また、カスタマーハラスメントを受けた際に慌てず適切な対応が取れるように、対応方法、手順等を決めておくことが推奨されます。以下は、本マニュアルに掲載されている職場においてカスタマーハラスメントを受けた場合の顧客/取引先への対応例です。

  • 時間拘束型
  • リピート型
  • 暴言型
  • 暴力型
  • 威嚇・脅迫型
  • 権威型
  • SNS/インターネット上での誹謗中傷型
  • セクシュアルハラスメント型

これ以外にも、顧客等の行為には様々なパターンがありますので、それぞれの状況に応じた柔軟な対応を想定しておくことが望ましいですが、はじめから完璧なものを目指さずに作成し、実際のケースを反映させて定期的に更新していくのが望ましいです。

顧客等への対応は、基本的には複数名で対応し、対応者を一人にさせない、行為
が深刻な場合は一次対応者に代わって現場監督者が対応する等、従業員の安全にも配慮する必要があります。

しかし、小規模な店舗等や営業時間帯によって引き継ぐ管理者がその場にいないような場合も想定されますので、その際は、現場従業員のみでも適切な対応ができるよう基本的な対応方法を一般従業員に周知しておくことが必要です。

顧客対応が不適切な場合、顧客の態度がエスカレートすることが想定され、どの従業員にも基本的な対応ができるよう教育しておくとよいでしょう。

現場対応者による初期対応においては、まずは対象となる事実、事象を明確かつ限定的に謝罪するのがセオリーとされています。例えば、「この度は不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ありません」といったように不快感を抱かせたことに対して謝罪をします。正確に状況が把握できていない段階では、企業として非を認めたような発言をすることは望ましくありません。

そのうえで、今後顧客と連絡が取れるように、顧客の名前·住所·連絡先等の情報を得ます。次に、顧客が主張する内容を正確に把握することが求められます。顧客から話を聞く際には、まずは一通り事情を確認しましょう。相手の話をじっくり聞くことで、顧客を落ち着かせることにもつながります。確認後、顧客が話す内容に不明確なものがあれば確認をし、不足する情報があれば追加で意見をもらい、顧客の勘違いがあれば正しい情報を提供します。

このように対応の方法をマニュアルで示して教育を行うことで、クレームがエスカレートすることも防止することが可能です。

お問い合わせはお気軽に。043-245-2288

参考リンク

職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産等、育児・介護休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)(厚生労働省HP)