世界の労働基準監督署からVOL015:横須賀労働基準監督署

前回に引き続き、働き方改革推進法の附帯決議について取り上げていきたいと思います。

十一、教員の働き方改革については、教員の厳しい勤務実態や学校現場の特性を踏まえつつ、ICTやタイムカード等による勤務時間の客観的な把握等適正な勤務時間管理の徹底、労働安全衛生法に規定された衛生委員会の設置及び長時間勤務者に対する医師の面接指導など、長時間勤務の解消に向けた施策を推進すること。また、学校における三六協定の締結・届出等及び時間外労働の上限規制等の法令遵守の徹底を図ること。

今回の改正とは直接関係はありませんが、近年教員の過重労働が問題視されるようになりました。教員もまた、介護職や保育所のように「やりがい」を強調されやすい業務で、それが過重労働の温床となりやすい産業といえます。今回の付帯決議をうけて、今後対策に具体的な動きが見られるかもしれません。

十二、本法による長時間労働削減策の実行に併せ、事業主が個々の労働者の労働時間の状況の把握を徹底し、かつその適正な記録と保存、労働者の求めに応じた労働時間情報の開示を推奨することなど、実効性ある改善策を講じていくこと

今回の改正で労働時間の適正把握が安衛法により義務付けらることになりましたが、本付帯決議は、労働者の求めに応じた情報開示にまで言及している点が注目されます。

十三、本法において努力義務化された勤務間インターバル制度について、労働者の健康の保持や仕事と生活の調和を図るために有効な制度であることに鑑み、好事例の普及や労務管理に係るコンサルティングの実施等、その導入促進に向けた具体的な支援策の展開を早急に実施するとともに、次回の見直しにおいて義務化を実現することも目指して、そのための具体的な実態調査及び研究等を行うこと。なお、一日当たりの休息時間を設定するに際しては、我が国における通勤時間の実態等を十分に考慮し、真に生活と仕事との両立が可能な実効性ある休息時間が確保されるよう、労使の取組を支援すること。

勤務インターバル制度は、引き続き努力義務として定められていますが、将来的には義務化される可能性も否定できません。当面は助成金や支援事業による普及を目指すものと思われます。

十四、年次有給休暇の取得促進に関する使用者の付与義務に関して、使用者は、時季指定を行うに当たっては、年休権を有する労働者から時季に関する意見を聴くこと、その際には時季に関する労働者の意思を尊重し、不当に権利を制限しないことを省令に規定すること。また、労働基準監督署は、違反に対して適切に監督指導を行うこと。

この内容は、実務上も重要な点となりそうです。すなわち「年休権を有する労働者から時季に関する意見を聴くこと、その際には時季に関する労働者の意思を尊重し、不当に権利を制限しないことを省令に規定すること」という点です。

十五、時間外労働時間の上限規制の実効性を確保し、本法が目指す長時間労働の削減や過労死ゼロを実現するためには、三六協定の協議・締結・運用における適正な労使関係の確保が必要不可欠であることから、とりわけ過半数労働組合が存在しない事業場における過半数代表者の選出をめぐる現状の課題を踏まえ、「使用者の意向による選出」は手続違反に当たること、及び、使用者は過半数代表者がその業務を円滑に推進できるよう必要な配慮を行わなければならない旨を省令に具体的に規定し、監督指導を徹底すること。また、使用者は、労働者 が過半数代表者 であること若しくは過半数代表者になろうとしたこと又は過半数代表者として正当な行為をしたことを理由として不利益な取扱いをしてはならない旨の省令に基づき、その違反に対しては厳しく対処すること。

十六、裁量労働制の適用及び運用の適正化を図る上で、専門業務型においては過半数労働組合又は過半数代表者、企画業務型においては労使委員会の適正な運用が必要不可欠であることから、前項の過半数代表の選出等の適正化に加え、労使委員会の委員を指名する過半数代表の選出についても同様の対策を検討し、具体策を講ずること。

過半数代表者や労使委員会の適正選出等を確認するものです。三六協定に関して言えば、過半数代表者の選出はその有効性に関わるため、注意する必要があります。

十七、特に、中小企業・小規模事業者においては、法令に関する知識や労務管理体制が必ずしも十分でない事業者が数多く存在すると考えられることを踏まえ、行政機関の対応に当たっては、その労働時間の動向、人材の確保の状況、取引の実態その他の事情を踏まえて必要な配慮を行うものとすること。

中小企業に対する「必要な配慮」を求めるものです。施行時期に合わせて、支援事業が実施されるものと思われます。

十八、裁量労働制については、今回発覚した平成25年度労働時間等総合実態調査の公的統計としての有意性・信頼性に関わる問題を真摯に反省し、改めて、現行の専門業務型及び企画業務型それぞれの裁量労働制の適用・運用実態を正確に把握し得る調査手法の設計を労使関係者の意見を聴きながら検討し、包括的な再調査を実施すること。その上で、現行の裁量労働制の制度の適正化を図るための制度改革案について検討を実施し、労働政策審議会における議論を行った上で早期に適正化策の実行を図ること。

裁量労働制の改正は今回見送られたわけですが、「制度の適正化」を図るために再検討することが決議されましたので、また改正に向けて議論がスタートするものと思われます。

十九、長時間労働の歯止めがないとの指摘を踏まえ、高度プロフェッショナル制度を導入するに当たっては、それが真に働く者の働きがいや自由で創造的な働き方につながる制度として運用され、かつそのような制度を自ら希望する労働者にのみ適用されなければならないことに留意し、この制度創設の趣旨にもとるような制度の誤用や濫用によって適用労働者の健康被害が引き起こされるような事態を決して許してはいけないことから、制度の趣旨に則った適正な運用について周知徹底するとともに、使用者による決議違反等に対しては厳正に対処すること。

二十、高度プロフェッショナル制度の適用労働者は、高度な専門職であり、使用者に対して強い交渉力を持つ者でなければならないという制度の趣旨に鑑み、政府は省令でその対象業務を定めるに当たっては対象業務を具体的かつ明確に限定列挙するとともに、法の趣旨を踏まえて、慎重かつ丁寧な議論を経て結論を得ること。労使委員会において対象業務を決議するに当たっても、要件に合致した業務が決議されるよう周知・指導を徹底するとともに、決議を受け付ける際にはその対象とされた業務が適用対象業務に該当するものであることを確認すること。

今回与野党の対立が最も先鋭化したのが高度プロフェッショナル制度(通称「高プロ」)でした。ここでは、労使委員会の決議の遵守などについて、監督署による指導を徹底することを求めるものです。

二十一、前項において届出が受け付けられた対象業務について、制度創設の趣旨に鑑み、使用者は始業・終業時間や深夜・休日労働など労働時間に関わる働き方についての業務命令や指示などを行ってはならないこと、及び実際の自由な働き方の裁量を奪うような成果や業務量の要求や納期・期限の設定などを行ってはならないことなどについて、省令で明確に規定し、監督指導を徹底すること。

この問題は、その他の裁量労働制についても共通する問題です。仕事の量に裁量がないため、実際には「自由な働き方」とはいえないような働き方も見られることがたびたび指摘されており、本決議は成果・納期の設定に関する留意事項を省令に盛り込むことを求めるものです。

二十二、高度プロフェッショナル制度の対象労働者の年収要件については、それが真に使用者に対して強い交渉力のある高度な専門職労働者にふさわしい処遇が保障される水準となるよう、労働政策審議会において真摯かつ丁寧な議論を行うこと。

年収要件は1075万円とすることを前提にして議論されていますが、その点について熟考を求めるものといえるでしょう。

二十三、高度プロフェッショナル制度を導入する全ての事業場に対して、労働基準監督署は立入調査を行い、法の趣旨に基づき、適用可否をきめ細かく確認し、必要な監督指導を行うこと。

高プロ導入企業については、監督署による全て立ち入り調査をすることを求めるものです。もとより監督官の人員不足も問題となっていますが、これについては、優先して指導に入るのでしょう。

二十四、今般の改正により新設される労働時間の状況の把握の義務化や、高度プロフェッショナル制度における健康管理時間の把握について、事業主による履行を徹底し、医師による面接指導の的確な実施等を通じ、労働者の健康が確保されるよう取り組むこと。

二十五、高度プロフェッショナル制度の対象となる労働者の健康確保を図るため、「健康管理時間」は客観的な方法による把握を原則とし、その適正な管理、記録、保存の在り方や、労働者等の求めに応じて開示する手続など、指針等で明確に示すとともに、労働基準監督署は、法定の健康確保措置の確実な実施に向けた監督指導を適切に行うこと。

二十六、高度プロフェッショナル制度適用労働者やその遺族などからの労災申請があった場合には、労働基
準監督署は、当該労働者の労働時間の把握について徹底した調査を行う等、迅速かつ公正な対応を行うこと。

高プロ適用者の健康確保に関しては、多方面から懸念する声があります。本決議によれば、高プロ適用者の「健康管理時間」は客観的な方法による把握を原則とすることを求めるものです。要するにタイムカードやICカードによる時間把握を原則として求められるものと思われます。

過労死が疑われる場合には、調査を徹底することももとめており、「健康管理時間」は労働時間を意味するものではありませんが、判断の参考にはされるのでしょう。

参考リンク

「働き方改革」の実現に向けて(厚生労働省HP)

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