• 今回の九州北部豪雨に関して、福岡労働局が、今回のような非常時における労働基準法等の規定内容や考え方などをQ&A形式で公表した

今回の九州北部豪雨に関して、福岡労働局が、今回のような非常時における労働基準法等の規定内容や考え方などをQ&A形式で公表しました。気候変動により、これまでに経験したことのないような豪雨は、関東でも決して他人事ではありません。そこで、今回はその内容のうち、重要と思われるものをピックアップして紹介したいと思います。


Q1-4 今回の九州北部豪雨で、事業場の施設・設備が直接的な被害を受け労働者を休業させる場合、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」による休業に当たるでしょうか。

A1-4 労働基準法第26条では、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならないとされています。

ただし、天災事変等の不可抗力の場合は、使用者の責に帰すべき事由に当たらず、使用者に休業手当の支払義務はありません。

ここでいう不可抗力とは、①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たすものでなければならないと解されています。

今回の九州北部豪雨で、事業場の施設・設備が直接的な被害を受け、その結果、労働者を休業させる場合は、休業の原因が事業主の関与の範囲外のものであり、事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故に該当すると考えられますので、原則として使用者の責に帰すべき事由による休業には該当しないと考えられます。(以下略)


このQ&Aでは、今回の災害により直接的な被害を受けたような場合には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」には原則として該当しないと考えられます。


Q3-1 今回の災害を理由に雇用する労働者を解雇・雇止めすることはやむを得ない対応として認められるのでしょうか

A3-1 災害を理由とすれば無条件に解雇や雇止めが認められるものではありません。

また、今回の災害の影響により、厳しい経営環境に置かれている状況下においても、出来る限り雇用の安定に配慮していただくことが望まれます。

解雇については、法律で個別に解雇が禁止されている事由・・・以外の場合は、労働契約法の規定や裁判例における以下のようなルールに沿って適切に対応する必要があります。

①いわゆる「正社員」など無期労働契約(期間の定めのない労働契約)の場合

労働契約法第16条では、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定されています。

特に、整理解雇(経営上の理由から余剰人員削減のためになされる解雇)については、裁判例において、解雇の有効性の判断に当たり、(1)人員整理の必要性、(2)解雇回避努力義務の履践、(3)被解雇者選定基準の合理性、(4)解雇手続の妥当性、という4つの事項が考慮されております。

「解雇回避努力義務の履践」とは、使用者が、配転や出向、希望退職の募集等他の手段によって解雇の回避を試みているかのことを言います。

②有期労働契約(期間の定めのある労働契約)の場合

・・・労働契約法第17条第1項では、「使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。」と規定されており、有期労働契約期間中の解雇は、その契約期間が労働者と使用者の合意により決定したものであることから、無期労働契約の場合よりも、解雇の有効性は厳しく判断される点に留意が必要です。

・・・また、有期労働契約であっても、無期労働契約と実質的に異ならない状態に至っている契約である場合や、反復更新の実態、契約締結時の経緯等から雇用継続への合理的期待が認められる場合は、労働契約法第19条(いわゆる「雇止め法理」について、最高裁判例の趣旨を規定したもの。)の規定により、雇止めが認められないことがあります。

個別の解雇・雇止めの当否については最終的には裁判所における判断となりますが、これらの規定の趣旨や裁判例等に基づき、適切に対応されることが望まれます。(以下略)


ポイントは一行目に凝縮されていると思いますが、それ以下は、解雇に関する一般的な説明です。


Q7-1 今回の災害により、被害を受けた電気、ガス、水道等のライフラインの早期復旧のため、被災地域外の他の事業者が協力要請に基づき作業を行う場合に、労働者に時間外・休日労働を行わせる必要があるときは、労働基準法第33条第1項の「災害その他避けることができない事由によって、臨時の必要がある場合」に該当するでしょうか。

A7-1 労働基準法第32条においては、1日8時間、1週40時間の法定労働時間が定められており、これを超えて労働させる場合や、労働基準法第35条により毎週少なくとも1日又は4週間を通じ4日以上与えることとされている休日に労働させる場合は、労使協定(いわゆる36協定)を締結し、労働基準監督署に届けていただくことが必要です。

災害その他避けることのできない事由により臨時に時間外・休日労働をさせる必要がある場合においても、例外なく、36協定の締結・届出を条件とすることは実際的ではないことから、そのような場合には、36協定によるほか、労働基準法第33条第1項により、使用者は、労働基準監督署長の許可(事態が急迫している場合は事後の届出)により、必要な限度の範囲内に限り時間外・休日労働をさせることができるとされています。

労働基準法第33条第1項は、災害、緊急、不可抗力その他客観的に避けることのできない場合の規定ですので、厳格に運用すべきものです。なお、労働基準法第33条第1項による場合であっても、時間外労働・休日労働や深夜労働についての割増賃金の支払は必要です。

御質問については、被災状況、被災地域の事業者の対応状況、当該労働の緊急性・必要性等を勘案して個別具体的に判断することになりますが、今回の災害による被害が相当程度のものであり、一般に早期のライフラインの復旧は、人命・公益の保護の観点から急務と考えられるので、
労働基準法第33条第1項の要件に該当し得るものと考えられます。

ただし、労働基準法第33条第1項に基づく時間外・休日労働はあくまで必要な限度の範囲内に限り認められるものですので、過重労働による健康障害を防止するため、実際の時間外労働時間を月45時間以内にするなどしていただくことが重要です。また、やむを得ず月に100時間を超える時間外・休日労働を行わせたことにより疲労の蓄積の認められる労働者に対しては、医師による面接指導等を実施し、適切な事後措置を講じる必要があります。(以下略)


このQ&Aは「ライフラインの復旧」と範囲が限られていますが、その他の場合であっても、法令の要件に該当すれば、労基法33条の労基署長の許可を得ることにより、同条による時間外労働をさせることができます。

参考リンク

平成29年九州北部豪雨に伴う労働基準法等に関するQ&A(福岡労働局HP,PDF)

MORI社会保険労務士・行政書士事務所(千葉県千葉市中央区)では、日々生じる従業員に関する問題やちょっとした労働法に関する疑問、他社事例について、気軽に電話やメールで相談できる「労務相談」業務の依頼を受託しています。もちろん労働基準法に関するご相談、給与計算(年末調整)、労働・社会保険、就業規則、各種許認可業務等も対応します。

toiawase