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番外編・2013年を振り返る〜ブラック企業問題〜


※写真と記事内容は、一切関係ありません。

 明けましておめでとうございます。本年もMORI社労士・行政書士事務所をよろしくお願いいたします。なお、当事務所は1月6日から営業を開始します。年末年始休暇期間中に緊急のご用件がございましたら事務所までお電話ください。代表の携帯電話に転送されます。

 さて、お休みの間に2013年を少し振り返ってみたいと思います。今日は、特に昨年耳目を集めた「ブラック企業問題」について、企業の視点から整理してみたいと思います。

 そもそも、自社が「ブラック企業」(厚生労働省は「ブラック企業」とはいわず、「若者の『使い捨て』が疑われる企業」という呼称を用いています)とされるような状況におかれることのデメリットは何なのでしょうか。それは、行政による取締りの対象となることや訴訟を提起される可能性もそうですが、離職率の増加や士気の低下といった問題も同様に深刻だと私は考えています。しかし、どの会社でも、経営判断として残業時間が増えてでも仕事をしていもらわなければならない時期というのはあるでしょう。そうすると、結局、中長期的な事業計画のなかで現在の局面を位置づけた労働時間管理を行いながら、行政や訴訟に対する備えをしていくということになるのだと思います。

 では、行政や訴訟への対応にあたって注意すべきところはどのような点になるのでしょうか。ここで参考になるのは、2013年9月に厚生労働省が実施した「若者の『使い捨て』が疑われる企業」等に対して実施された集中的な監督指導です。ここで重点監督と位置づけられた項目は以下の内容です。なお、同監督指導では、パワハラについても周知啓発が行われました。

■重点監督の結果法違反が多く認められた事項

  1. 三六協定なく時間外労働を行っているもの、三六協定で定める限度時間を超えて時間外労働を行っているものなど違法な時間外労働があったもの
  2. 賃金不払残業
  3. 衛生委員会において、労働者の健康障害の防止及び健康の保持増進に関する事項について調査審議を行っていないもの、ならびに1月当たり 100 時間以上の時間外・休日労働を行った労働者から、医師による面接指導の申出があったにもかかわらず、面接指導を実施していないもの

 これらのうち、調査で違反率が最も高かったのが労働時間関係(全業種で43.8%)でした。労働時間については、残業時間が三六協定の範囲内に収めなければなりません。残業が長時間にわたる場合であっても、特別条項を締結することによって、一時的または突発的な時間外労働について「限度基準」(下記リンク「時間外労働の限度に関する基準」を参照)を超えて労働させることができますので、これを実態に合わせて設定することで、労基法違反となる事態は避けるようにすることが大切です。ただし、特別条項により限度時間を超えて労働させることができるのは、全体として1年の半分を超えない期間とされており、また、特別条項に定める上限時間をあまり長時間に設定すると、労基署窓口で指導されることがあります。

 次に賃金不払い残業についてみてみましょう(調査での違反率は23.9%)。この問題については、労基法41条の管理監督者や事業場外みなし労働時間制度の要件が厳しく判断されるようになった現在においては、固定残業手当がもっとも汎用的な対応策といえます(もちろん固定残業手当を使わずに割増賃金を支払うのが確実ですが)。ただし、固定残業手当を超える時間について残業代を支払う必要があるほか、いくつか注意すべき点もあるので、手当を払っておけば問題ないというわけではないことに注意が必要です。よく見かけるのは、手当を超える部分を支払っていないケース、固定残業部分として区分・区別されているか微妙なケースなどがあります。

 3つめの健康障害防止対策関係については、違反率1.4%と非常に低い割合になっています。医師による面接指導については比較的新しい制度であることから、労使ともに十分に周知されておらず、労働者からの申出が少ないためだと思われます。

 以上3点が今回の指導の重点項目でした。今後も引き続きこれらの項目については重点的に指導が行われる可能性があるでしょう。

 ところで、法令が形式的に遵守されたとしても、実際に過労死などの労働災害が発生した場合には、民事訴訟による損害賠償責任を負う可能性があることにも注意が必要です。労災保険の過労死認定の基準では、「長期間の過重業務」による脳・心臓疾患を、業務上の疾病(労災保険給付の対象)として取り扱うとしています。その具体的な評価にあたっては、不規則な勤務等の項目を検討することになっていますが、労働時間については、以下のように評価されます。

■労働時間の評価の目安

 疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられる労働時間に着目すると、その期間が長いほど、業務の過重性が増すところであり、具体的には、発症日を起点とした1か月単位の連続した期間をみて、

  1. 発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労僅か認められない場合は、業務と発症との関連性が弱いと評価できること
  2. おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症の関連性が徐々に強まると評価できること
  3. 発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できること

を踏まえて判断します。

 このように、時間外労働については、100時間とか80時間というのが目安になります。この基準は、労災認定上のものであって、裁判所がこの基準に拘束されるというわけではありませんが、事実上重要な基準となっています。このほか健康診断の結果、たとえば高血圧は脳卒中や心筋梗塞を引き起こしやすいといわれています。従業員の健康管理は当然本人が負うべきものですが、会社としても、自己防衛のために必要な従業員に対して十分指導することが望ましいでしょう。

 最後に、私(当事務所代表)の「ブラック企業」に対する考えを蛇足として付け加えておきます。それは、過労死基準を超えるような長時間労働や賃金不払い残業を行っているというような状況で事業が長期継続できるのかということです。ここで、突然ですが私の趣味の歴史を紐解いてみましょう。中国の古い兵法書である「孫子」の一節に次のようなものがあります。

「兵は拙速なるを聞くも、未だ功久なるをみざるなり」

 孫子は、戦争の長期化を戒めます。戦争の長期化は、兵士を疲れさせ士気を下げ経済も困窮させるため、孫子は、「拙速−まずくともすばやくやる−ということはあっても功久−うまくて長引く−という例はまだ無い」と述べています(書き下し、訳ともに、金谷治訳注「孫子」岩波書店)。私は、戦争を過重労働の状態と読み替えてこれを引用したわけですが、皆さんはどう考えるでしょうか。

■関連リンク
若者の「使い捨て」が疑われる企業等への重点監督の実施状況(厚生労働省HP)
時間外労働の限度に関する基準(厚生労働省HP)
脳・心臓疾患の労災認定 −「過労死」と労災保険(厚生労働省HP)


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