キャリアアップ助成金の令和6年版のQ&Aが公開されました。そこで、今回はその中でも「正社員化コース」に関するもののうち重要なものを紹介していきましょう。

Q-1 キャリアアップ助成金の支給要件や助成メニュー等について、令和
6年4月1日から変更はありますか。

A-1 キャリアアップ助成金については、令和5年度中に改正があった他、
令和6年4月1日から、一部コースにおける支給要件等に変更があります。
主な変更点は以下のとおりです。
なお、本変更は令和6年4月以降の取組(正社員化や規定改定、社会保険加入
等の取組)から適用されますので、取組・支給申請前に必ずご確認ください。
【正社員化コース】
○令和6年4月1日以降の取組に係る制度の大きな変更はありません。
※ただし、令和5年11 月29 日以降の取組について、以下の要件緩和、拡充を
行っています。
・対象となる有期雇用労働者の通算雇用期間要件を「6か月以上3年以内」
から「6か月以上(※)」に緩和
(※5年を超える者は、転換前の雇用形態を無期として支給額を決定)
・支給額を拡充(以下、中小企業の助成額。大企業はその4分の3の額

・多様な正社員以外の通常の正社員への転換規定(派遣労働者の直接雇用規定
含む)を新たに設け、当該規定日以後かつ同計画期間内に初めて対象者への
転換等の取組を実施した場合の加算の新設(中小企業20 万円、大企業15 万円)
・新たに多様な正社員制度を設け、制度規定日以後かつ同計画期間内に初めて
当該雇用区分への転換等の取組を実施した場合の加算額を拡充
(中小企業9.5 万円→40 万円、大企業7.125 万円→30 万円)
○その他、一部要件の確認に関して、以下の見直しを行います。
<1か月単位の変形労働時間制>
・賃金上昇要件において、上記かつ月給制の場合、毎月の勤務シフト表による「月単位の所定労働時間」を基に1時間あたりの賃金を算出して比較することとしていましたが、変形労働時間制でない場合と同様に平均の月所定労働時間を基に1時間あたりの賃金を算出して比較します。(特定月への所定休日の集中によって、転換日によって所定労働1時間あたりの賃金に差が生じることを考慮する取扱いになります。)

<正規雇用労働者の定義>
・昇給、賞与、退職金制度について、以下のとおり取扱います。なお、当該制度については、いずれも長期雇用を前提とした正規雇用労働者の待遇であることが必要です(※)。

(昇給)
原則としては、基本給の昇給かつ、年1回以上の実施が予定される昇給制度をいいますが、全ての正規雇用労働者に支給され、かつ残業代や賞与、退職金の算定基礎となる諸手当を昇給する制度については、原則の昇給制度と照らして不合理な制度でないと客観的に判断できる場合には支給対象となり得ます。

(賞与)
支給要領に定める賞与の要件に該当する制度である場合、賞与以外の名目であったとしても支給対象となり得る場合があります。
例えば、本人の業績や貢献度等によって、事務職には賞与を6か月に1回支給、営業職には歩合手当を3か月に1回支給しており、他の賃金待遇も変わり無い場合、この歩合手当の計算方法が賞与制度と比較して同等の制度であると客観的に判断できる場合には、営業職についても賞与制度を備えているものと見做し、支給対象となり得ます。

(退職金)【継続。「iDeCo+」(イデコプラス)は引き続き対象外。】
原則としては、事業主が積立・拠出額を負担することを規定した制度であって、実際に積立・掛金の拠出が行われている制度をいいますが、企業型確定拠出年金(選択型)をいわゆる生涯設計手当等の名目で予め受け取る場合や、その他原則の退職金制度と照らして不合理な制度でないと客観的に判断できる場合には支給対象となり得ます。

※企業規模や職種、地域の賃金水準等を勘案した、通常の正規雇用労働者の労働条件として妥当な額。本助成金の賞与・退職金制度導入コースにおいては、非正規雇用労働者を対象とした処遇改善の基準として、6か月あたり5万円以上の賞与支給、1万8千円以上の退職金積立を要件としています。
本助成金の正社員化コースの場合は、転換後に担う職務の内容や責任の程度が非正規雇用労働者と異なる前提(キャリアアップの趣旨)であることから、上述を超える額かつ企業規模等を勘案した額の支給・積立を前提とした制度であることが指標となり得ます。

※各制度について就業規則等に規定され、正社員に適用されていることが必要です。(以下省略)

最初のQ&Aでは、昨年の改正内容の復習のほか、若干の補足説明があり有用です。とくに、正社員待遇について「本助成金の賞与・退職金制度導入コースにおいては、非正規雇用労働者を対象とした処遇改善の基準として、6か月あたり5万円以上の賞与支給、1万8千円以上の退職金積立を要件としています。・・・正社員化コースの場合は、転換後に担う職務の内容や責任の程度が非正規雇用労働者と異なる前提(キャリアアップの趣旨)であることから、上述を超える額かつ企業規模等を勘案した額の支給・積立を前提とした制度であることが指標となり得ます」というのは、賞与額等の最低ラインの考え方が示された点に注目されます。

次に「①-1正社員化コース(正社員定義・対象労働者要件・試用期間)について」の中で、賞与に関する規定で重要なものを復習もふくめてみていきましょう。

Q-3 正社員転換後6か月の間に、賞与や昇給の実績がないのですが、支給
対象になりますか。
A-3 正社員に適用される就業規則等に「賞与または退職金制度」かつ「昇給」の規定を確認することができれば、支給対象となり得ます。
ただし、就業規則等に沿った運用がなされていない場合(例:6月に賞与支給
と規定されているが、当該月に支給されていない等)、必要に応じて合理的な説明を求める場合があります。
なお、「勤続1年以上経過した者より賞与を支給する」等、転換直後からの支
給が期待できない制度であったとしても、転換者に限った差別的な取扱いでは
なく、正社員として採用された者と同一の待遇として規定しているものであれ
ば、支給対象となり得ます。

賞与に関する規定があっても実際の運用状況によっては不支給の可能性があることを示したものです。

Q-4 天災事変等により経営状況の見通しが立ちません。賞与について「賞
与は原則として支給する。ただし、業績によっては支給しないことがある。」
と規定している場合は、支給対象となりますか。
A-4 就業規則等で賞与制度の規定がある場合に、「賞与は原則として支給す
る。ただし、業績によっては支給しないことがある。」との記載だけをもって不支給となることはありません。
その一方で、「賞与は支給しない。ただし、業績によっては支給することがあ
る。」といったように、原則不支給の場合や、「賞与の支給は会社業績による」といったように、原則として賞与を支給することが明瞭でない場合は、支給対象外となります。

「業績によって支給しないことがある」という規定はあっても差し支えないとするものです。

Q-9 賞与の支給月や回数を記載できない場合は、正社員定義の「賞与」に
は該当しないのでしょうか。
A-9 支給時期等を記載できない場合は、支給の原則性及び記載できないこ
とに対しての合理的な説明を求める場合があります。その上で、原則として支
給することが確認できない場合は、正社員定義の「賞与」には該当しません。
ただし、「原則として、毎年6 月及び12 月に支給する。ただし。業績により
支給しない場合がある」といった規定であれば対象となります。

このQ&Aは「ただし」以下の規定例が、実際の就業規則の規定を作成するうえで参考になります。

次に昇給についてみていきましょう。

Q-6 昇給について、賃金改定の規定(年1回賃金を見直す等)や降給の可
能性のある規定は、「昇給のある就業規則」が適用されている正社員として見
なすことはできますか。
A-6 毎年昇給する訳では無く、賃金の据え置きや降給の可能性があること
を規定している場合は、就業規則等に客観的な昇給基準等の規定が必要です。
※ 客観的な昇給基準等がなく、賃金据え置きや降給の規定がある場合(支給不可のケース)
(例)会社が必要と判断した場合には、会社は、賃金の昇降給その他の改定を行う。
※ 客観的な昇給基準等に基づき、賃金減額の規定をおいている場合(支給可のケース)
(例)昇給は勤務成績その他が良好な労働者について、毎年〇月〇日をもって行うものとする。ただし、会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由がある場合は行わないことがある。
(例)毎年1回、各等級の役割遂行度を評価し、基本給の増額又は減額改定を行う。

昇給については、「支給可のケース」の一つ目の例で規定することが多いと思われますが、この規定例では「据え置き」までしかできないので、降給も追加するかどうかも検討する必要があります。

お問い合わせはお気軽に。043-245-2288

参考リンク

キャリアアップ助成金(厚生労働省HP)