世界の労働基準監督署からVOL001:茂原労働基準監督署

在宅勤務手当について、割増賃金の算定基礎から除外することができる場合を明確化するため、在宅勤務手当が実費弁償と整理され、割増賃金の基礎となる賃金への算入を要しない場合の取扱いを示した通達が発出されました。

割増賃金の基礎となる賃金に算入しない賃金は、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金および一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金とされているところです。

一方、在宅勤務をする労働者に使用者から支給されるいわゆる在宅勤務手当については、労働基準関係法令上の定めはなく、企業においては様々な実態がみられるが、一般的には労基法37条5項や労基則21条に規定する「除外賃金」に該当しないと考えられるため、割増賃金の基礎となる賃金に算入されることになります。

しかし、各企業において支給される在宅勤務手当が、以下の内容に照らして、事業経営のために必要な実費を弁償するものとして支給されていると整理される場合には、在宅勤務手当については、割増賃金の基礎となる賃金への算入は要しないとされました。

つまり、在宅勤務手当が「実費弁償」かどうかが、大事な判断基準になります。そして、在宅勤務手当が事業経営のために必要な実費を弁償するものとして支給されていると整理されるためには、労働者が実際に負担した費用のうち業務のために使用した金額を特定し、当該金額を精算するものであることが外形上明らかである必要があることが必要とされました。

このため、就業規則等で実費弁償分の計算方法が明示される必要があり、かつ、当該計算方法は在宅勤務の実態(勤務時間等)を踏まえた合理的・客観的な計算方法である必要があります。このことから、たとえば、従業員が在宅勤務に通常必要な費用として使用しなかった場合でも、その金銭を企業に返還する必要がないもの(例えば、企業が従業員に対して毎月5,000円を渡切りで支給するもの)等は、実費弁償に該当せず、賃金に該当し、割増賃金の基礎に算入すべきものとなります。

在宅勤務手当のうち、実費弁償に当たり得るものとしては、事務用品等の購入費用、通信費(電話料金、インターネット接続に係る通信料)、電気料金、レンタルオフィスの利用料金などが考えられるところですが、これらが事業経営のために必要な実費を弁償するものとして支給されていると整理されるために必要な「在宅勤務の実態(勤務時間等)を踏まえた合理的・客観的な計算方法」としては、次の3つの方法が考えられるとされています。

一つは、国税庁「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」(以下「国税庁FAQ」という。)で示されている計算方法です。

もう一つは、上記の国税庁FAQで示されている方法の一部を簡略化した方法です。具体的には、通信費(電話料金、インターネット接続に係る通信料)及び電気料金については、在宅勤務手当の支給対象となる労働者ごとに、手当の支給月からみて直近の過去複数月(たとえば3か月程度)の各料金の金額及び当該複数月の暦日数並びに在宅勤務をした日数を用いて、業務のために使用した1か月当たりの各料金の額を(1)の例により計算する方法です。この場合は、在宅勤務手当の金額を毎月改定する必要はなく、当該金額を実費弁償として一定期間(最大1年程度)継続して支給することが考えられます。

「一定期間」経過後に改めて同様の計算方法で在宅勤務手当の金額を改定することが考えられますが、電気料金等は季節による変動も想定されることから、労働者が実際に負担した費用と乖離が生じないよう適切な時期に改定することが望ましいとされています。

ただし、この取扱いは、当該在宅勤務手当があくまで実費弁償として支給されることを前提とするものです。そのため、上記の実費弁償の考え方に照らし、常態として在宅勤務手当の額が実費の額を上回っているような場合には、当該上回った額については、賃金として割増賃金の基礎に算入すべきものとなります。

3つ目は、在宅勤務手当を実費の一部を補足するものとして支給する方法で、それが実費の額を上回らない限りにおいて、実費弁償になると考えられます。そこで、実費の額を上回らないよう1日当たりの単価をあらかじめ合理的・客観的に定めた上で、当該単価に在宅勤務をした日数を乗じた額を在宅勤務手当として支給する方法が考えられます。 「実費の額を上回らないよう1日当たりの単価をあらかじめ合理的・客観的に定め」る方法として、通信費および電気料金については、例えば、次のAからCまでの手順で定める方法が考えられます。

  1. 当該企業の一定数の労働者について、国税庁FAQ問6から問8までの例により、1か月当たりの「業務のために使用した基本使用料や通信料等」「業務のために使用した基本料金や電気使用料」をそれぞれ計算する。
  2. Aの計算により得られた額を、当該労働者が当該1か月間に在宅勤務をした日数で除し、1日当たりの単価を計算する。
  3. 一定数の労働者についてそれぞれ得られた1日当たりの単価のうち、最も額が低いものを、当該企業における在宅勤務手当の1日当たりの単価として定める。

なお、Aの「一定数」については、当該単価を合理的・客観的に定めたと説明できる程度の人数を確保することが望ましいとされています。また、例えば、「一定数の労働者」を当該単価の額が高くなるよう恣意的に選んだ上で当該単価を定めることは、当該単価を合理的・客観的に定めるものとは認められず、当該単価を基に支給された在宅勤務手当も、実費弁償には該当しません。

お問い合わせはお気軽に。043-245-2288

参考リンク

割増賃金の算定におけるいわゆる在宅勤務手当の取扱いについて(厚生労働省HP)