厚生労働省がいわゆる「106万円の壁」「130万円の壁」への対応のパッケージを発表しました。

短時間労働者にも賃上げの流れを波及させていくために、本人の希望に応じて可能な限り労働参加できる環境が重要とされています。また、企業の人手不足感は、コロナ禍前の水準に近い不足超過となっていることから、本人の希望に応じて可能な限り労働参加できる環境づくりは、人手不足への対応にもつながるものです。

一方、労働者の配偶者で扶養され社会保険料の負担がない層のうち約4割が就労しており、その中には、一定以上の収入(106万円または130万円)となった場合の、社会保険料負担の発生や、収入要件のある企業の配偶者手当がもらえなくなることによる手取り収入の減少を理由として、就業調整をしている者が一定程度存在しています。そこで、壁を意識せずに働く時間を延ばすことのできる環境づくりを後押しするため、当面の対応として、本年10月から、以下の政策を進めることとされました。

  1. 106万円の壁への対応
    • ①キャリアアップ助成金のコースの新設
    • ②社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外
  2. 130万円の壁への対応
    • ③事業主の証明による被扶養者認定の円滑化
  3. 配偶者手当への対応
    • ④企業の配偶者手当の見直し促進

以上の全体像は以下の通りです。

では、さらに①~④の具体的な施策についてみていきましょう。

まず、「①キャリアアップ助成金のコースの新設」では、キャリアアップ助成金を拡充し、短時間労働者が新たに被用者保険の適用となる際に、労働者の収入を増加させる取組を行った事業主に対して、最大3年で計画的に取り組むケースを含め、一定期間助成(労働者1人当たり最大50万円)が行われます。助成対象となる労働者の収入を増加させる取組には、賃上げや所定労働時間の延長のほか、被用者保険の保険料負担に伴う労働者の手取り収入の減少分に相当する手当(社会保険適用促進手当)の支給も含めることとされました。また、支給申請に当たって、提出書類の簡素化など事務負担が軽減される見込みです。

次に「②社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外」については、被用者保険が適用されていなかった労働者が新たに適用となった場合に、当該労働者に対し、給与・賞与とは別に「社会保険適用促進手当」を支給することができるものとします。また、当該手当などにより標準報酬月額・標準賞与額の一定割合を追加支給した場合、キャリアアップ助成金の対象となり得るものとされます。

さらに、労使双方の保険料負担を軽減する観点から、社会保険適用促進手当については、被用者保険適用に伴う労働者本人負担分の保険料相当額を上限として、最大2年間、標準報酬月額・標準賞与額の算定に考慮しないこととされます。なお、同一事業所内において同条件で働く他の労働者にも同水準の手当を特例的に支給する場合には、社会保険適用促進手当に準じるものとして、同様の取扱いとされます。

130万円の壁対策としては、「③事業主の証明による被扶養者認定の円滑化」として、一時的に収入が増加し、直近の収入に基づく年収の見込みが130万円以上となる場合であっても、直ちに被扶養者認定を取り消すのではなく、総合的に将来収入の見込みを判断することとされます。また、被扶養者認定においては、過去の課税証明書、給与明細書、雇用契約書等を確認していますが、一時的な収入の増加がある場合には、これらに加えて、一時的な収入変動である旨の事業主の証明を添付することで、迅速な認定を可能となります。

配偶者手当への対応としては、「④企業の配偶者手当の見直し促進」として、中小企業においても配偶者手当の見直しが進むよう、見直しの手順をフローチャートで示す等わかりやすい資料を作成・公表するとともに、配偶者手当を支給している企業が減少の傾向にあること等を周知するとされました。

以上を概観すると、現在「扶養の範囲」で就業しているパートタイマーの労働時間を延長しようとする場合には主に①と②を活用し、繁忙期(年末など)の就業を促す場合に③を活用することになるでしょう。もっとも急ごしらえの政策であり、今後様々な実務上の問題点が出てくる可能性は否めません。今後さらに出てくる情報にも注意が必要です。

お問い合わせはお気軽に。043-245-2288

参考リンク

年収の壁・支援強化パッケージ(厚生労働省HP)

※速報のため、1日前倒しで記事を公開しました。