今回の記事、ざっくり言うと…

  • 時間外労働手当に関して、今注目を集めている最高裁判決である国際自動車事件について取り上げる
  • この事件は,タクシー乗務員として勤務していた労働者が,歩合給の計算に当たり残業手当等に相当する金額を控除する旨を定める会社の賃金規則上の定めが無効であり,会社は,控除された残業手当等に相当する金額の賃金の支払義務を負うと主張して,未払賃金等の支払を求めたもの
  • 原審では「歩合給の計算に当たり対象額Aから割増金に相当する額を控除している部分は,同条の趣旨に反し,ひいては公序良俗に反するものとして無効」とされたが、最高裁はこれを破棄して差し戻した

今回は、時間外労働手当に関して、今注目を集めている最高裁判決である国際自動車事件(H28.2.28最三小判)を取り上げましょう。

この事件は,タクシー乗務員として勤務していたタクシー乗務員である労働者が,歩合給の計算に当たり残業手当等に相当する金額を控除する旨を定める会社の賃金規則上の定めが無効であり,会社は,控除された残業手当等に相当する金額の賃金の支払義務を負うと主張して,未払賃金等の支払を求める事案です。

まず、問題となっている時間外労働手当の計算を紹介する前に、その算定の基礎となる「対象額A」についてみておきます。

対象額A=(所定内揚高-所定内基礎控除額)×0.53+(公出揚高-公出基礎控除額)×0.62

そして、問題となる「歩合給(1)」は,次のとおりとされていました。

歩合給(1)=対象額A-{割増金(深夜手当,残業手当及び公出手当の合計)+交通費}

このように、歩合給からは残業手当等の割増賃金が控除されることになっていました。つまり、時間外労働により残業手当が支給されても、歩合給から自動的に控除される計算方法になっていたわけです。

この点について、原審では、「歩合給の計算に当たり,対象額Aから割増金及び交通費に相当する額を控除するものとしている。これによれば,…揚高が同額である限り,時間外労働等をしていた場合もしていなかった場合も乗務員に支払われる賃金は同額になるから,本件規定は,労働基準法37条の規制を潜脱するものである」とし、「歩合給の計算に当たり対象額Aから割増金に相当する額を控除している部分は,同条の趣旨に反し,ひいては公序良俗に反するものとして無効」とされました。

しかし、最高裁は、この原審の判決を破棄し、次のように判示したうえで高裁へ差し戻しとしました。

  • 労働契約において売上高等の一定割合に相当する金額から同条に定める割増賃金に相当する額を控除したものを通常の労働時間の賃金とする旨が定められていた場合に,…当該定めが当然に同条の趣旨に反するものとして公序良俗に反し,無効であると解することはできない
  • 原審は,通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができるか否か,また,そのような判別をすることができる場合に,本件賃金規則に基づいて割増賃金として支払われた金額が労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かについて審理判断するこ
    となく,被上告人らの未払賃金の請求を一部認容すべきとしたものであり,割増賃金に関する法令の解釈適用を誤った結果,上記の点について審理を尽くさなかった違法があるといわざるを得ない。
  • 労働者らに割増賃金として支払われた金額が労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かについて審理判断するに当たっては,被上告人らの時間外労働等のうち法内時間外労働や法定外休日労働に当たる部分とそれ以外の部分とを区別する必要がある

さて、本判決については、日経新聞が「歩合給から残業代から差し引く賃金は「有効」」と報じたりもしていましたが、筆者は、判決文だけを読んだだけでは、高裁判決にダメ出ししているだけで、有効とまでは言えないように思われます。筆者としてはは、こういう賃金制度が有効と認められたとまでは、現時点では言いづらいです。

差し戻し審でのポイントは、①通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができるかどうか,②支払われた割増賃金が労基法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないかどうか、となるでしょう。

高裁判決がこれらをどのように判断するのかは注目すべき、というのは当たり前ですが、もし会社側の主張が認められた場合、歩合制でなくても、たとえば賞与から引くのはどうかなど、派生する論点も生じてきそうです。

参考リンク

判決文(最高裁判所HP)

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