短時間労働者が「年収の壁」を意識せず働くことができる環境づくりを支援するため、当面の対応の一つとして、「社会保険適用促進手当」の制度が導入されました。

「社会保険適用促進手当」は、給与・賞与とは別に支給するものとし、新たに発生した本人負担分の保険料相当額を上限として、保険料算定の基礎となる標準報酬月額・標準賞与額の算定に考慮しないこととする。また、同一事業所内で同じ条件で働く他の労働者にも同水準の手当を特例的に支給する場合には、社会保険適用促進手当に準じるものとして、同様の取り扱いとすることも可能とされています。

本手当の対象者は標準報酬月額が10.4万円以下の者で、報酬から除外する手当の上限額は、被用者保険適用に伴い新たに発生した本人負担分の保険料相当額です。

支給対象者は特定適用事業所(106万円の壁がある企業)に勤務する短時間労働者に限られないとされていますので、4分の3基準で社会保険に加入する労働者も対象とすることができますが、近年の最低賃金の状況をふまえると、事実上106万円の壁のある企業に勤務する労働者が対象になるでしょう。

社会保険適用促進手当は、社会保険の適用に伴い発生する本人負担分の健康保険・厚生年金保険・介護保険に係る本人負担分の保険料相当額が、標準報酬等の算定から除外できる上限額となります。このため、当該上限額は、加入する医療保険者の保険料率、標準報酬月額、介護保険料の有無により労働者ごとに異なるとされています。標準報酬月額は定時決定・随時改定等により変動する場合があり得ますので、その場合の取り扱いについてもあらかじめ検討しておく必要があります。

本手当は、支給のタイミングについても、事業主の判断により、社会保険料の支払開始の1、2か月後から手当の支給が開始されること、社会保険料の数か月分をまとめて手当として支給ことも可能とされており(Q&A3-1)、標準報酬月額が10.4万円以下の月に支払われた本人負担分保険料相当額の社会保険適用促進手当をまとめて支給した場合は、支給月の標準報酬月額等の算定から除外することができるとされています。

社会保険適用促進手当の特例措置は、それぞれの労働者について、最大2年間とされており、2年が経過した後は、通常の手当と同様に標準報酬月額・標準賞与額の算定に含めて保険料が計算されます。「それぞれの労働者について」とされていることから、個別に管理が必要となり、実務上注意を要します。

なお、2年間の判断に当たっては、社会保険適用促進手当においてどの月の保険料負担を軽減したか(対象としたか)が基準となり、社会保険適用促進手当による保険料負担軽減の最初の対象月から2年間が期間の上限となります。そうすると、ある程度まとめ払いをしたほうが管理しやすいといえるかもしれません。

また、2年以内に月額変更等により標準報酬月額が10.4万円超となった場合、その月から社会保険適用促進手当を標準報酬月額の算定に含めることとなり、月額変更の要件を満たす場合には、社会保険適用促進手当を標準報酬月額の算定に含めた月から4か月目に標準報酬月額を改定することになります。

なお、 この特例を受ける手当については名称に関して繰り返し「標準報酬月額等の算定から除外する場合は、「社会保険適用促進手当」の名称を使用するようお願いします」とされており、「お願いベース」ではあるものの、これに従うのが無難でしょう。

最後に留意点をいくつかあげると、①短時間労働者の社会保険の適用要件である月額賃金8.8万円の判定に当たっては、社会保険適用促進手当を含めて判断すること、②厚生年金保険等の給付額の算出基礎にも含まれないこと、③税等の他制度に関しては通常の取扱いとなること(課税)、④平均賃金、割増賃金の算定基礎には、「臨時に支払われる賃金」に該当する場合を除いて、算入されること、などがあります。

なお、「社会保険適用促進手当」については、今後更なるQ&Aが発出される可能性もあるため、注意が必要です。

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参考リンク

年収の壁・支援強化パッケージ(厚生労働省HP)