第189回労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会で「雇用保険部会」の素案が示されました。そこで、今回はその資料からわかる今後の改正動向についてみていくことにしましょう。

第1に、雇用保険の適用範囲の拡大です。現状は、週の所定労働時間が20時間以上の労働者が雇用保険法の適用対象になるとされているところですが、雇用労働者の中で働き方や生計維持の在り方の多様化が進展していることを踏まえ、雇用のセーフティネットを拡げる必要があることから、雇用保険の適用対象を週の所定労働時間が10時間以上の労働者まで拡大する案が示されました。報告書によれば、2028(令和10)年度中に施行することとすべきとされています。

第2に、教育訓練給付金です。この制度では、厚生労働大臣が指定する教育訓練を受講・修了した場合にその費用の一部を支給すること(教育訓練給付)を通じて、労働者の学び直し等を支援しているところですが、個人の主体的なリ・スキリング等への直接支援をより一層、強化、推進するとともに、その教育訓練の効果(賃金上昇や再就職等)を高めていく必要があることから、①専門実践教育訓練給付金(中長期的キャリア形成に資する専門的・実践的な教育訓練講座を対象)について、教育訓練の受講後に賃金が上昇した場合には、現行の追加給付に加えて、更に受講費用の10%(合計80%)を追加で支給すること、②特定一般教育訓練給付金(速やかな再就職及び早期のキャリア形成に資する教育訓練講座を対象)について、資格取得し、就職等した場合には、受講費用の10%(合計50%)を追加で支給することなどが示されました。

第3に、教育訓練中の生活を支えるための給付と融資制度の創設です。労働者が自発的に、教育訓練に専念するために仕事から離れる場合に、その訓練期間中の生活費を支援する仕組みがないこと、また、雇用保険の被保険者ではない者が、公共職業訓練等以外の教育訓練を自発的に受けるための費用や生活費を支援する仕組みがないことから、①雇用保険被保険者が教育訓練を受けるための休暇を取得した場合に、賃金の一定割合を支給する教育訓練休暇給付金を創設すること、②雇用保険の被保険者ではない者を対象に、教育訓練費用や生活費を対象とする融資制度を創設することが示されました。

第4に、自己都合離職者の給付制限の見直しです。現状では、正当な理由のない自己都合離職者に対しては、失業給付(基本手当)の受給に当たって、待期満了の翌日から原則2ヶ月間(5年以内に2回を超える場合は3ヶ月)の給付制限期間がありますが、労働者が安心して再就職活動を行えるようにする観点等を踏まえ、給付制限期間を見直す必要があることから、原則の給付制限期間を2ヶ月から1ヶ月へ短縮すること(ただし、5年間で3回以上の正当な理由のない自己都合離職の場合には給付制限期間を3ヶ月)、②離職期間中や離職日前1年以内に、自ら雇用の安定及び就職の促進に資する教育訓練を行った場合には、給付制限を解除することなどが示されました。

第5に、育児休業給付の給付率の引上げです。現状では、育児休業を取得した場合、休業開始から通算180日までは賃金の67%(手取りで8割相当)、180日経過後は50%が支給されますが、夫婦ともに働き、育児を行う「共働き・共育て」を推進する必要があり、特に男性の育児休業取得の更なる促進が求められることから、子の出生直後の一定期間以内(男性は子の出生後8週間以内、女性は産後休業後8週間以内)に、被保険者とその配偶者の両方が14日以上の育児休業を取得する場合に、最大28日間、休業開始前賃金の13%相当額を給付し、育児休業給付とあわせて給付率80%(手取りで10割相当)へと引き上げることが示されました。なお、配偶者が専業主婦の場合や、ひとり親家庭の場合などには、配偶者の育児休業の取得を求めずに給付率を引き上げるとされています。したがって、給付率は以下のようになります。

第6に、育児時短就業給付の創設については、現状では、育児のための短時間勤務制度を選択し、賃金が低下した労働者に対して給付する制度はありませんが、柔軟な働き方として、時短勤務制度を選択できるようにするため、被保険者が、2歳未満の子を養育するために、時間勤務をしている場合に、時短勤務中に支払われた賃金額の10%とする育児時短就業給付を創設することとされました。

このように雇用保険制度は次の改正で大きく変更されることになりそうです。今後改正に向けた本格的な議論が始まりますが、その動向については注視する必要があります。

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参考リンク

第189回労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会(厚生労働省HP)