世界の労働基準監督署からVOL003:千葉労働基準監督署

厚生労働省が平成29年に発出されたいわゆる定額残業代に関する通達をHPに掲載しました。本通達は、名称によらず、一定時間分までの時間外労働、休日労働及び深夜労働に対する割増賃金として定額で支払われる賃金(定額残業代)の不適切な運用により、労働基準法上の時間外労働等の割増賃金の支払義務等に違反する事例も発生していることから、時間外労働等に対する割増賃金の適切な支払いのために留意すべき事項を示したものです。

本通達では、はじめに医療法人社団康心会事件(H29.7.7最二小判)の要旨を次のようにまとめています。

(1) 本件は、医師である上告人(労働者)が、被上告人(使用者)に対して時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金等の未払分の支払いを求めた事案である。

(2) 被上告人と上告人の間には、時間外労働等に対する割増賃金を年俸の中に含める旨の合意…があったことから、上告人が未払いを主張する時間外労働等の割増賃金は全て支払い済みである旨主張した。

(3) しかしながら、本件合意においては、上告人に対して支払われる年俸のうち、時間外労働等の割増賃金に当たる部分が明らかにされていなかった。

(4) 最高裁は、割増賃金を基本給や諸手当にあらかじめ含める方法で支払うことについて、労働契約における基本給等の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要であるとした累次の判例…を引用し、本件については、上告人に支払われた年俸のうち時間外労働等に対する割増賃金として支払われた金額を確定することすらできず、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできないことから、被上告人の上告人に対する年俸の支払により、上告人の時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金が支払われたということはできないと判示し、原審に差し戻した。

以上を踏まえて、本通達では、定額残業代について、次の留意点を示しました。

第1に、基本賃金等の金額が労働者に明示されていることを前提に、例えば、時間外労働、休日労働及び深夜労働に対する割増賃金に当たる部分について、相当する時間外労働等の時間数又は金額を書面等で明示するなどして、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを明確に区別できるようにしているか確認すること、第2に割増賃金に当たる部分の金額が、実際の時間外労働等の時間に応じた割増賃金の額を下回る場合には、その差額を追加して所定の賃金支払日に支払わなければならないことです。そして、使用者が「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(労働時間把握GL)を遵守し、労働時間を適正に把握しているか確認することとされたました。

そして、今後の対応について①窓口での相談や集団指導等のあらゆる機会を捉えて、上記で確認すべきとした内容について積極的に周知すること、併せて、労働時間把握GLの内容についても説明・周知を図ること、②監督指導を実施した事業場に対しては時間外労働等に対する割増賃金を基本給や諸手当にあらかじめ含めて支払っているか否かを確実に確認し、上記の問題が認められた場合は、是正勧告を行うなど必要な指導を徹底することとされました。

今回取り上げた通達の発出日以降、さらなる判例の積み重ねにより、定額残業代については、通達で指摘されている「明確区分性」にさらに「対価性」が重視されるようになっていますので、今後も最新の判例の情報をキャッチアップすることが大切です。

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参考リンク

時間外労働等に対する割増賃金の適切な支払いのための留意事項について(厚生労働省HP、PDF)