前回に引き続き、滋賀労働局が作成したハラスメント研修の資料にもとづいて、ハラスメント対策についてみていくことにしましょう。

厚生労働省 令和2年度「職場のハラスメントに関する実態調査」(労働者等調査)によれば、過去3年間に、パワハラ、セクハラおよび顧客等からの著しい迷惑行為を一度以上経験した者の割合は、それぞれ31.4%、10.2%、15.0%という結果でした。また、過去5年間に、女性の妊娠・出産・育児休業等ハラスメント、妊娠・出産等に関する否定的な言動(いわゆるプレマタハラ)、男性の育児休業等ハラスメントを一度以上経験した者の割合は、それぞれ26.3%、17.1%、26.2%でした。このように、ハラスメントは少なくない割合で経験しており、特にパワハラを経験したことがある割合は30%を超えています。

一方、ハラスメントの予防・解決のための取組を進めたことによる副次的効果としては、「職場のコミュニケーションが活性化する/風通しが良くなる」(35.9%)の割合が最も高く、次いで「管理職の意識の変化によって職場環境が変わる」(32.4%)が高いという結果でした。このようにパワハラ対策を行うことが、結果的に職場環境の改善につながることも示唆されています。

では、なぜハラスメントが起きてしまうのでしょうか。資料によれば、つぎの4点が指摘されています。

  • 「しごく」ことで人が動く(業績が上がる、生産性が高まる)という誤解
  • 感情のヒートアップコントロールのきかない否定的感情
  • 性別役割分担意識
  • 妊娠・出産、育児休業等に関する制度等への理解不足

また、職場環境の問題として次の点が指摘されます。厳しい競争、人手不足、ダイバーシティの問題を抱える現代においては、どれも他人事とは言えないのではないでしょうか。

  • 上司と部下のコミュニケーションが少ない
  • 正社員や正社員以外の様々な立場の従業員が一緒に働いている
  • 残業が多い・休みが取り難い
  • 失敗が許されない、失敗への許容度が低い
  • 第三者の目が行き届かない場面がある

しかし、いくら理由があったとしても、ハラスメントの行為者となることには次のようなリスクがありますので、管理職の方は、自分自身の言動はもちろん、部下がそのような行為をしないよう、注意や指導をすることも必要です。

  • 社内での処分
    • 懲罰規定(就業規則):「減給」「降格」「けん責」「出勤停止」「諭旨解雇」「懲戒解雇」等
  • 民事上の責任として損害賠償を請求される
    • 民事上の責任:(行為者には)民法709条の不法行為責任(会社には) 民法415条の債務不履行責任(安全配慮義務違反)民法715条の使用者責任
  • 刑事罰に課せられる
    • 刑事罰:名誉棄損、侮辱罪、脅迫罪、暴行罪、傷害罪等⇒そして、社会的信用、社会的地位を失う。自身の家庭が崩壊する。

このようなことにならないよう、ハラスメントについての十分な理解・関心を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うことが大切です。これは、取引先等の他の事業主が雇用する労働者や休職者に対しても同様です。

っして、ハラスメントにならないための円滑な職場コミュニケーションの醸成、業務上の指示や指導・教育の適切な方法を理解することが大切です。

  • 叱る対象・理由は正当な範囲かどうか
  • 自分の感情を認識する(怒り、怖れ、悲しみ、焦り、妬み)
  • 攻撃でなく「改善点を的確に指摘・指導」する
  • 相手を見て接し方を工夫する□ 不要な誤解を招かないコミュニケーションを心掛ける

このほかにも、隠れたハラスメントがないか、周囲のメンバーの変化に注意し、ハラスメントを起こさせない、職場環境づくりの役割理解が管理職には求められるといえます。

たとえば、注意や業務指導は業務を進める上で必要ですが、パワーハラスメントの正しい知識を持ち、部下の成長のため、適正な範囲で業務指導を行うことが大切です。職場の業務を円滑に進めるために、管理職に一定の権限が与えられており、業務上必要な指示や注意・指導などもその一つです。そして、厳しい指導であっても、「業務上の適正な範囲」と認められる限り、パワーハラスメントには当たりません。

たとえば、取引先のアポイント時間を間違えて部下が遅刻したときに、同行した上司が「何やってるんだ!」と注意しただけではパワーハラスメントとは言えません。しかし、さらに「だからおまえとは仕事をしたくないんだ!」「噂どおり役立たずだな!」「仕事しなくていいから帰って寝てろ!」などと人格を否定するような言動を行うことは、パワーハラスメント行為に該当する場合があります。

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参考リンク

滋賀労働局主催 オンラインセミナー(滋賀労働局HP)