世界の労働基準監督署からVOL014:足立労働基準監督署

厚生労働省が、来年から制度改正される裁量労働制について、詳細な内容を定めた通達(施行通達)を8月2日付で発出しました。今回はその通達に基づいて、専門業務型裁量労働制に関する内容についてみていきましょう。

はじめに、専門業務型裁量労働制の協定事項に、次の事項が追加されます。

  1. 使用者は、専門業務裁量労働制の適用を受けことについて労働者の同意を得なければならないこと、および、同意をしなかった当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと
  2. 上記の同意の撤回に関する手続
  3. 上記1の同意およびその撤回に関する労働者ごとの記録を労使協定の有効期間中および当該有効期間の満了後3年間保存すること

上記の労働者の同意は、労働者ごとに、かつ、労使協定の有効期間ごとに得られるものであることが必要であるとされています。 また、協定するに当たっては、事業場における専門業務型裁量労働制の制度の概要、専門業務型裁量労働制の適用を受けることに同意した場合に適用される評価制度および賃金制度の内容ならびに同意しなかった場合の配置および処遇について明示した上で説明して当該労働者の同意を得ることを労使協定で定めることとされました。

なお、専門業務型裁量労働制導入後の処遇等について十分な説明がなされなかったこと等により、当該同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものとは認められない場合には、労働時間のみなしの効果は生じないこととなる場合があるとされています。

同意の撤回に関して協定するに当たっては、撤回の申出先となる部署及び担当者、撤回の申出の方法等その具体的内容を明らかにすることが必要となります。また、使用者は、適用労働者が同意を撤回した場合の配置・処遇について、同意の撤回を理由として不利益に取り扱うことは禁止されています。

次に、専門業務型裁量労働制導入事業場における記録の保存義務については、労使協定で労働者ごとの記録を保存することを定めることとされた事項について、労使協定の有効期間中及びその満了後3年間保存しなければならないとされました。

次に、専門業務型裁量労働制の対象業務として、「銀行または証券会社における顧客の合併および買収に関する調査または分析およびこれに基づく合併および買収に関する考案および助言の業務(いわゆるM&Aアドバイザーの業務)が追加されました。

上記のほか、適正な運用を確保するため、次の内容が示されています。

はじめに、「時間配分の決定」には、始業・終業の時刻の決定も含まれるため、使用者からいずれか一方でも指示される業務は専門業務型裁量労働制の対象業務に該当しないとされました。また、業務量が過大である場合や期限の設定が不適切である場合には、「時間配分の決定」に関する裁量が事実上失われることがあるとされました。適用労働者から時間配分の決定等に関する裁量が失われたと認められる場合には、労働時間のみなしの効果は生じないことになります。

そして、専門業務型裁量労働制の実施にあたっては、適用労働者の上司に対し、次に掲げる事項について必要な管理者教育を行い、これらの事項について十分理解させることが適当とされました。

  • 専門業務型裁量労働制の趣旨・制度の内容
  • 業務量・期限を適正に設定し、指示を的確に行うこと
  • 適用労働者から時間配分の決定等に関する裁量が事実上失われるおそれがある場合には的確にこれらの見直しを行うこと

次に、「みなし労働時間」と処遇の確保に関して、みなし労働時間を設定するに当たっては、対象業務の内容および適用労働者に適用される評価制度・賃金制度を考慮して適切な水準のものとなるようにし、適用労働者の相応の処遇を確保することが必要とされました。また、みなし労働時間は、所定労働時間や所定労働時間に一定の時間を加えた時間をみなし労働時間とすること等は可能であることが確認されましたが、その場合にも、適用労働者への特別の手当の支給や、適用労働者の基本給の引上げなどを行い、相応の処遇を確保することが必要とされました。

次に、所定労働時間をみなし労働時間として設定するような場合において、所定労働時間相当働いたとしても明らかに処理できない分量の業務を与えながら相応の処遇を確保しないといったことは、専門業務型裁量労働制の趣旨を没却するものであり、不適当であるとされました。

次に、いわゆる「健康・福祉確保措置」については、次のいずれにも該当する内容のものであることが必要とされました。

  • 「労働時間の状況」の概念およびその把握方法は、安衛法66条の8の3により把握することが義務付けられている「労働時間の状況」と同一のもので、使用者による適用労働者の労働時間の状況の把握は、いかなる時間帯にどの程度の時間、労務を提供し得る状態にあったかを把握するものであること
  • 上記により把握した労働時間の状況に基づいて、適用労働者の勤務状況に応じ、使用者がいかなる健康・福祉確保措置をどのように講ずるかを明確にすること

労使協定においては以下のいずれかの措置を選択し、実施することが適切であることとされています。

  1. 勤務間インターバルを確保すること
  2. 法第37条第4項に規定する時刻の間において労働させる回数を1箇月について一定回数以内とすること
  3. 把握した労働時間が一定時間を超えない範囲内とすること及び当該時間を超えたときは法第38条の3第1項の規定を適用しないこととすること
  4. 年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めてその取得を促進すること
  5. 把握した労働時間が一定時間を超える適用労働者に対し、医師による面接指導を行うこと
  6. 把握した適用労働者の勤務状況・健康状態に応じて、代償休日または特別な休暇を付与すること
  7. 把握した適用労働者の勤務状況及・健康状態に応じて、健康診断を実施すること
  8. 心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること
  9. 把握した適用労働者の勤務状況およびその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換をすること
  10. 働き過ぎによる健康障害防止の観点から、必要に応じて、産業医等による助言・指導を受け、又は適用労働者に産業医等による保健指導を受けさせること

上記の「一定時間」や「一定回数」の具体的な内容については、原則として労使協定に委ねられるものですが、1の時間が著しく短い場合、ならびに3・5の時間が著しく長い場合、ならびに2の回数が著しく多い措置については、健康・福祉確保措置として不適切とされました。なお、5については、安衛則に規定する時間数を超えて設定することは認められないとされました。

苦情処理措置については、専門業務型裁量労働制の同意を得るに当たって、苦情の申出先、申出方法等を書面で明示する等、苦情処理措置の具体的内容を労働者に説明することが適当とされ、苦情には至らない運用上の問題点についても幅広く相談できる体制を整備することが望ましいとされています。

最後に、労使協定の見直し 労使協定の内容は一定の期間ごとに見直すことが適当とされており、協定内容を見直す場合には、適用労働者に適用される評価制度およびこれに対応する賃金制度の運用状況を過半数代表者等に対して開示することが適当とされました。ここでいう「適用労働者に適用される評価制度およびこれに対応する賃金制度の運用状況」とは、実情に応じて、例えば適用労働者の賃金水準や、専門業務型裁量労働制適用に係る特別手当の実際の支給状況、適用労働者の実際の評価結果の状況などをまとめた概要等を示すことが考えられるとされています。なお、情報を開示するに当たっては、適用労働者のプライバシーの保護に十分留意することが必要であることはいうまでもないでしょう。

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参考リンク

裁量労働制の概要(厚生労働省HP)